ディストーション・ラヴァーズ

3.

 

 その日はIVが神代家に招かれていた。IVが家に来ることも最早初めてのことではなかった。当たり前のように彼は玄関で靴を脱いで、リビングでもてなしのコーヒーを飲んで、彼が手みやげに持ってきたケーキを三人で食べるのだ。凌牙はいつも二人の邪魔をしてはいけないと部屋に篭もってしまうのだが、今日ばかりは璃緒と練った作戦を実行しなければいけない。

「今用意するから、待っててちょうだい。凌牙は手伝って」

「わかったよ」

「相変わらず妹には頭上がらないんだな」

 これから自分の身に何が起こるか知らないIVは、余裕の表情で凌牙をからかう。

「うるせぇ」

 短くそれだけ言って、凌牙は璃緒についてキッチンへと向かう。三人分の皿とフォークを用意する璃緒の隣で、湯を沸かし、インスタントだがコーヒーを入れる。

「わぁ、おいしそうなチョコレートケーキ!」

 IVのいるリビングに届く声で璃緒が言う。

「この前見つけた店だ。俺の家族全員が認める美味さだぜ。全部違う種類のだから、好きなの選べよ」

「私、このオレンジが乗ってるやつがいいな。凌牙は?」

「俺はなんだっていいよ」

「じゃあ勝手に選んじゃうわよ」

「それよりコーヒー、どうするんだ。ミルクと砂糖」

 璃緒の目が一瞬鋭い眼光を宿す。既に作戦は始まっているのだ。

「トーマスはいつもの通りでいい?」

「ああ。チョコレートケーキだから、少し減らしてくれ」

「はい。凌牙、彼のコーヒーには砂糖ひとさじ、ね。スプーンにちょっと少な目にしてあげて。私のは分かってるよね?」

「ああ……」

 湯気をたてる三つのコーヒーカップのうちのひとつに、凌牙は言われた通りにスプーンから砂糖をさらさらと流し落とす。更に、小さな薬包紙を開くとその中身の白い粉末を加えた。

 それは睡眠薬。確か効果が現れるのは、一時間から二時間かかる。だがその威力のほどは凌牙が既に身体で実証済みだ。……なぜならこの薬は、IVが「普通じゃないプレイ」で、実際に凌牙に使用したものなのだから。

 コーヒーの中にそれがすっかり溶けたことを確認すると、凌牙と璃緒は二人で息をあわせるように頷く。残りのカップにはミルクと砂糖を、璃緒は多めに凌牙は少な目に入れて、盆に乗せて運ぶ。

「はい」

「ありがとう」

 璃緒にコーヒーを手渡されれば、IVは凌牙が思わずムっと腹を立ってしまうほどの上機嫌で早速カップに口をつける。気づかれぬように凌牙も璃緒もその様子を見守った。ごくり、とIVの喉が動く。間違いなく、薬の溶けたコーヒーを彼は飲んだのだ。

「味はどう?」

「ちょうどいい具合だ」

「淹れたのは凌牙よ。お礼言うなら、凌牙にね」

 璃緒が凌牙の方に振り向く。計画がうまく進んでいることを確認しあって、二人にだけ意味が分かる頷きを璃緒は凌牙に見せた。この後も可能な限り自然体を装わなければならない。

「……インスタントなのにベタ褒めとは、お前よほど璃緒のこと好きなんだな。残念だったな、俺が淹れたやつで」

「なんだよ、妬いてんのか?」

 からかい半分で言ったのだろうIVの台詞にびくりと肩が小さく跳ねたのは、緊張からだろうか。それとも。

「ちげーよ」

「ほら、さっさと食べないとチョコが溶けちゃうわよ」

 そうしてひとときの平穏が流れていく。互いの近況だとか、デュエルの話だとか、ノロケ話だとか、いろいろ談笑した後、璃緒が英語の宿題を教わりたい、と自室にIVを誘い込むのだ。璃緒がIVに英語を教わるのは別に今回が初めてというわけでもなかったので、彼は疑いもせずに承諾すると、璃緒の部屋のある二階に上がっていく。小さくあくびをかみ殺している横顔を見とめて、凌牙は壁にかかっている時計を確認した。

 そろそろ薬の効果が現れる時間だ。

 ごくりと生唾を飲んで、凌牙はそのときを待つ。

 ……璃緒とIVが二階に上がって、十分も経たないうちに、ポケットの中のDゲイザーが着信音を鳴らす。メールを確認すれば、送信元は予定通り、璃緒。

『作戦成功』

 短いメッセージに安堵と不安を同時に覚えながら、凌牙はソファから立ち上がって妹の待つ二階を目指した。

 

 

「ん……」

 小さな呻きを上げて、IVは目を覚ます。瞼を開いてみればそこは璃緒の部屋だった。璃緒に勉強を教える約束だったはずなのに、いつの間にか寝てしまったらしい。部屋の照明は最低限に抑えられていて、いるはずの璃緒の姿もない。……と、そこでようやく、IVは自分自身の異常に気づく。

「ん?」

 椅子に座った姿勢のまま眠っていたらしいのは分かる。それ自体はいいのだが、なぜかその椅子は机に向かっておらず、部屋の真ん中に置かれている。そして、IVの両腕は、椅子の背に回されて、後ろ手に縛り上げられていたのだ。

「なんだこりゃ?!」

 がたがたと椅子を揺らしてみるが、丈夫な縄でしっかりと身体は椅子に固定されてしまっている。まさか泥棒でも入ったのではなかろうか。いや流石にそんなことはないか……などとIVが考え始めたとき。

 静かに璃緒の部屋の扉が開く。警戒しながらIVはその先を見つめる。キイ、と小さく木の軋む音を立てた、扉の向こうから現れたのは。

「……なんだ? 凌牙。そんな格好して……」

 ペールブルーのベビードール。薄い布地からは肌が透けて見える。胸元には青い大ぶりのリボンが蝶々の形に結ばれている。ほんの少し動くだけでひらひらとなびいてしまう裾を恥ずかしそうに引っ張って押さえながら、裸足で部屋に足を踏み入れてきたのは璃緒の双子の兄……神代凌牙だ。

 照明は落とされているものの、凌牙がその一枚しか身につけていないことは分かった。IVは思わず唇を歪めてしまう。状況の異常さよりも、それによる興奮を先に認識してしまうあたりが、彼の性癖を物語っている。

「妹の部屋でしようってか? なかなかお前も変態だなぁ凌牙……」

「自分の部屋を好きに使って何が悪いのかしら?」

 間違いない、女の声が響いた。IVの口の動きが止まる。凌牙の後ろから、ひょこりと出てきたのは凌牙よりも髪を長く伸ばしたつり目がちの赤い瞳が凛々しい少女……凌牙の双子の妹、璃緒だ。

 彼女もまた、凌牙と同じ様に、裸の上に一枚、兄とおそろいのベビードールを身につけているだけだ。こちらはベビーピンクの薄布に、赤いリボンが結ばれている。

「なっ、璃緒?!」

 その姿には流石のIVも動揺を隠せないようだ。なんといっても彼女は彼の大切な大切な恋人なのである。

「私に内緒にしてたこと、全部知ってるわよ。今夜は私も凌牙と一緒に、トーマス! あなたを気持ちよくしてみせるから!」

 びし、とまるでデュエルの申し込みでもするような妹の様はこれからこの部屋で繰り広げられるだろう行為とまるでかけ離れた雰囲気で、凌牙は呆れと不安と罪悪感がぐちゃぐちゃに混ざったような気持ちが胸を圧迫するようだった。

「ふふ……さあ、凌牙?」

 行くわよ、とばかりに璃緒は凌牙の手を握って促す。全ては璃緒の立てた計画である。彼女もまた、真剣に恋人との関係の発展を望んでいて、恋人にもっと気持ちよくなってほしいという願いを抱いている。計画を練っている最中の様子から、それは凌牙にも痛いほど伝わってきていた。

 凌牙は璃緒のことを大切に思っている。それこそIVにも負けないくらい。だからこそ璃緒のこの真剣な願いを叶える協力をすることに反対出来なかった。いくらそれが、歪んだ方法であっても。

 IVのすぐ目の前まで双子は歩み寄る。椅子に縛られたIVは未だ状況の整理ができていないらしく、目を瞬かせているばかりだ。そんな彼の瞳をじっと覗き込んで、ふっと形の良い唇に、誰もを魅了してしまうような笑みを描きながら、璃緒は恋人の頬に両手を伸ばした。

「……!」

 璃緒がIVの唇に唇を重ねる。ゆっくりと、長い時間をかけて。

「……っ、ん……」

 次第に濡れた水の音や、吐息と共に漏れる甘い声が聞こえ出す。IVから璃緒に舌を入れることは今までなかったと璃緒は言っていた。だから璃緒が、あのとき凌牙にしたように、IVの口の中に舌を入れたのだ。努力家で天賦の才にも恵まれて、なんでも出来てしまう妹は、キスもまた上手かった。とはいえ経験が少ないため未熟であることも間違いない。息継ぎが多く、声がよく漏れる。その初々しい甘い声は、妹とはいえ女のもので、IVも凌牙もその艶に反応してしまうほどだ。

 IVの身体が興奮を見せ始めていることは、璃緒がキスしている間にIVの服を脱がせていた凌牙には良く分かった。元からIVが璃緒に性欲がなかったわけではない。抑えていた感情が、この異常なシチュエーショと同時にIVの歪んだ性癖を激しく刺激したのだろう。

 上着のボタンを全て外して前をはだけさせる頃には、IVはすっかり璃緒の前で被っているはずの紳士の仮面が剥がれ落ちかけていた。

「ん……っ、はぁ……、どう? トーマス……私ずっと、あなたとこんなキスがしたかったの」

 IVに舌での愛撫を返されたのだろうか、それとも何もされなかったのか、判断つかないほどに璃緒の頬は赤らんでいる。唇は唾液で濡れていて、あの夜の浴室での出来事を思い出させる。

「璃緒……」

「あなたが思ってるほど、私、子どもじゃないから」

 璃緒のその台詞がとても子どもじみていて、気持ちは分かるが、凌牙は思わずくすりと笑ってしまう。

 IVの反応を待たずに、璃緒は凌牙を促すと、ふたりで彼の足下に膝をついてしゃがみ込む。

「……じゃあ、凌牙、教えて? どうしたらトーマスを……気持ちよくさせられるのかを」

「……わかった」

 早速凌牙はしゃがみ込んだ目の前にある、IVの股間に手を伸ばした。ズボンのチャックを開けて、開いたそこから性器を取り出す。散々IV自身に仕込まれたことでもう凌牙の羞恥はどこかに置き去りになっていたと思っていたが、璃緒がすぐ傍で真剣な顔をしてそれを覗き込んでいるのが分かると、何も知らなかった頃の恥ずかしさを思い出すようだった。

「おい、凌牙っ、お前」

 IVが焦った声を出す。すっかり身体は興奮しているくせに、まだ理性は残っていて欲望を抑えているらしい。

 つつ、と性器の裏側を、指先でなぞればIVは小さく喉を引き攣らせた。

「……そこが、気持ちいいの?」

 尋ねてくるのは璃緒だ。凌牙は頷くと、更なる愛撫を加えていく。掌全体を使って揉んでやったり、根本から扱いてやったり、先端に軽く爪を立ててやったりすれば、IVの性器は少しずつ固さを持ち始める。

 おそらく初めて見るだろう、男の性器が勃起する様を妹に見せることは、凌牙に背徳感を抱かせるのには十分だった。背筋がぶるりと震える。それは決して悪寒ではないことに、凌牙は昏い喜びさえ感じていた。身体の芯がむずむずと疼いて熱を帯びてくる。興奮のまま、凌牙はIVの性器に躊躇いなくキスをした。妹の目の前で。

「……っ」

 璃緒が息を飲む声が聞こえたが、凌牙は口での愛撫を止めない。舌を出して、IVの性器を唾液で濡らしていく。てらてらと薄明かりの中で存在を主張する男性器は見慣れぬうちはグロテスクにさえ思えるだろう。それでも凌牙は奉仕を続けるし、璃緒に目隠しをすることもしない。いつの間にか真っ先に、この異常な空気の中に凌牙は飲み込まれてしまっていた。

「んっ……ちゅ、んむ……はぁ……」

 音を立ててしゃぶれば髪が垂れて邪魔をする。鬱陶しいとばかりに耳に髪をかける。上目遣いでIVを見れば、彼の顔は普段凌牙と性行為を交わすときの表情にどんどん近づいていっているのが分かった。

「は……ぁ、んんっ……」

 凌牙が先端を熱心にしゃぶっていると、そっと細く白い指が横から伸びて、IVの充血した性器に触れる。もちろんそれは、璃緒の手だった。

「凌牙……こう?」

 IVの性器の根本、凌牙が咥えていない箇所を璃緒は手で愛撫していく。凌牙がしたのをよく見ていて、IVの感じる場所をしっかりと掠めていく璃緒の指。凌牙は頷きながらも口淫を休めることはしない。

「お、い……お前ら」

 IVの声が上から降ってくる。

「……今更ごまかしても、意味ないわよ」

「っ……そうだ、こんなに、勃起させて……興奮してんだろ?」

 挑発するように凌牙と璃緒はIVを見上げて微笑む。そうすれば、陰になってはっきりは見えなかったが……IVは、間違いなく、その形の良い唇に、弧を描かせていた。

 どうやら璃緒の作戦は大成功だったようだ。

 兄妹による愛撫に、IVの性器はいよいよ天を向く。股間に顔を寄せて、凌牙と璃緒は左右からIVの性器を舌で舐め、唇で咥え、吸う。

「はむっ……、トーマスの、ここ、こんなになってるの……すごい……っ、ちゅ、んふ……」

 顔を赤らませ、好奇心と羞恥、そして怯えをごまかすような強がりの滲んだ表情の璃緒に、IVの性器は更に固くなる。

「璃緒……凌牙……お前ら、本気かよ……」

 それは最早制止にすらならない問いかけだった。

「ふ……気持ちイイ、でしょ? IV」

 璃緒が意地悪く、凌牙が言うようにIVをIVと呼ぶ。

「いつもの倍……だもんな、トーマス」

 凌牙も璃緒が呼ぶときの名前で呼んだ。左右を入れ替わりたちかわりIVの性器を愛撫していく双子は、男女という大きな差があれども似た艶を持っていて、IVを快楽の中に混乱させるのには十分だった。

「……こっちも、舐めてやれ。こいつ、ここ……舐められると……気持ち、よくなるから……っふ」

「ここ……?」

 璃緒の舌がIVの性器のくびれを舐めあげる。同時に凌牙も裏側の感じる箇所に舌を這わせる。

「うっ……!」

 びゅくり、とIVの性器が震える。IVが射精したのだ。彼が自分の射精をコントロール出来ないことは珍しい。否……わざと、何も告げずに射精をしたのかもしれないが。

「あ……」

 放たれた精液は、璃緒と凌牙の顔に直撃した。白くべたつく精液を、璃緒は頬に手をやると指先で拭った。

「気持ち……良かったの? トーマス」

 うれしそうに璃緒は指についた恋人の精液を舐める。

「璃緒……目とかには入ってないか」

「大丈夫。凌牙こそ、平気? 凌牙にも、ついてる……」

 璃緒は凌牙に抱きつくと、凌牙の頬についた精液を舌で舐めとっていく。

「ん……璃緒、苦くないか?」

 凌牙もまた、璃緒の顔についた白濁を舐める。精液の独特の臭いと味が舌先から口内に広がっていく。それが余計に、性欲を奮い起こさせる。

「うん……ちょっと苦いけど……全然平気。トーマスのだもん」

 抱き合った身体が触れる。薄い布たった一枚越しでは妹の肉の柔らかさも、かたちも、何もかもが分かった。凌牙の身体がどうなっているのかも璃緒にはきっと伝わっていることだろう。

 お互いの顔についた精液を舐めとる二人は、互いを愛し合いながらも、IVを愛してその精をかけがえのないものとして味わっている。

「……おいおい、お前ら」

 まるで恋人のように愛し合う兄妹を引き裂くように、低い声が響く。その声の持ち主は当然IV。トーマス・アークライト。璃緒に普段接するような甘い響きはなく、凌牙とのセックスの際、興奮極まって出すときと同じ様な、笑いを含んだ声だ。

「俺を無視して、二人でイチャついてんじゃねぇよ」

 混ぜろ、と彼は言っているのだ。その赤い瞳は間違いなく性欲を抱いてぎらついている。璃緒に対して最早性欲を隠そうとしていない。

「……っ」

 その瞳を見て、璃緒はごくりと息を飲んだ。これが、どうしようもない嗜虐性と歪みきった性癖を持つ男の本性だ。おびえるのも無理はないだろう。凌牙だって、はじめはそうだった。だが璃緒は、次の瞬間にはもう、嬉しそうに瞳を潤ませて、とろけそうな顔をしてみせていた。

 凌牙がIVの腕の拘束を解くと、すぐにIVは椅子に座ったまま、璃緒を抱き寄せ深い口づけを交わす。IV自らが与える濃厚なディープキスは、大人びているとはいえ未だ14歳で、初体験の璃緒が受けるには強力すぎる媚薬だろう。

「ふっ……んっ、んんっ」

 抱き寄せた手で、IVはベビードールの上から璃緒の胸を揉みしだく。凌牙の胸を揉む動きに似ていたが、璃緒の胸は発育良く膨らんでいる。手の動きにあわせて肉のうごく様に凌牙は目を奪われた。

「はっ……」

 IVが唇を離すとますますとろけた顔で璃緒が甘く鳴く。揉まれた胸がくすぐったいのか手で庇っている。

「キスってのはこうやるんだ。さっきのも初めてにしちゃ上出来だったが……凌牙とでも練習してたってことか? 俺という恋人がいるのにどれだけブラコンなんだよ」

「違う!」

 意地悪いIVの質問に反論したのは凌牙だ。

「璃緒とそんなキスは……一回しかしてない」

「一回はしたのかよ」

 くつくつとIVは喉を鳴らして笑う。

「だって、トーマスが、してくれないんだもん……凌牙にはしてるのに、うらやましくて、凌牙にキスすれば、トーマスと間接キスになるかもって」

「可愛らしい理由じゃねぇか、嬉しいねぇ」

「あっ」

 ぎゅっと胸を強く握るように揉まれて、璃緒は身体をしならせた。

「お前のココも、結構敏感なんだな」

 布の隙間から手を差し込み、IVは今度は直に璃緒の肌に触れて乳房を揉む。指先で薄く色づいた乳首の先をつつきながら、視線は凌牙のほうに向いている。

「お前も、って」

「流石双子つったところか?」

「……っ」

 凌牙は顔を羞恥に染めると目を逸らした。流石に、妹の前で、男が一生で一度も使うことのないだろう場所がどうなってしまっているのか、見せつける羽目になるのは耐え難かった。

「来いよ、凌牙……」

 手招きされる。璃緒が興味深さげに凌牙を見つめる。彼女に協力すると誓った手前、そんな瞳を向けられたら断ることも出来ない。おずおずと近寄ると、璃緒を抱く手と逆の腕で彼女と同じように抱き寄せられる。布越しに、乳首を抓られた。

「ひぁっ!」

 兄の口から、甲高い声が零れたことに璃緒は驚いて目を見開く。IVは凌牙の乳首を攻める手を休めない。抓った後は押し潰し、摘むように指先で扱いていく。その度に凌牙の身体はびくびくと震えてしまう。

「あっ、あぁっ」

「凌牙……」

「気持ちよさそうだろ?」

 弄られていない方の乳首までもがペールブルーの布を押し上げて赤く存在を主張している。IVの愛撫に身を捩らせて、普段の強気な青い瞳を潤ませる凌牙の姿に、璃緒はこくりと頷いた。

「ここまでにするには時間かかるが……ゆっくり開発してやるからな」

 璃緒の胸の谷間に顔を埋め、そこにIVは囁く。

「んっ」

「凌牙、こっちも触って欲しいんだろ?」

「はっ、んぅ……っ!」

 片側の乳首はもうIVが弄くり回してぷっくりと膨れ上がっている。未だ触れられていない方の乳首は、愛撫を今か今かと待ちわびている。

「璃緒、触ってみるか? お前の兄貴の乳首」

「えっ……」

 躊躇う璃緒の返事を待たず、IVは彼女の手首を掴むと凌牙の胸へと導いていく。璃緒の細い指先が凌牙の乳首を掠める。小さく甘い声が漏れた。それを彼女は、「求めている」と思ったのだろう。IVがしたように凌牙の乳首を摘む。

「ひぁっ、ああっ」

「凌牙……すごい、気持ちよさそう……気持ち、いい……」

 快感が連動しているかのように、凌牙が喘げば璃緒も熱を帯びていく。璃緒が以前「凌牙が気持ちいいことをしていると身体が疼いて分かる」と言ったが、凌牙も今まさにそれを実感していた。璃緒がIVにキスをされていることや、胸を揉まれているところを見て、凌牙の身体も疼いていたのだ。性器が薄い布をどんどん押し上げているのが分かる。

「璃緒……俺も、気持ち、いい……っ」

 凌牙もまた璃緒の胸に手をやり、揉む。IVはそんな倒錯した双子の様子を見、また彼自身も両方に愛撫を施すことで、この状況を楽しみ興奮している。凌牙の性器もだが、IVの性器も勃起していく。璃緒も、もじもじと太股と太股をもどかしそうにこすりあわせている。

「もうこっちにも欲しいのか? 凌牙」

 いつの間にかIVの手は凌牙の尻に伸びていた。入り口をつつかれて、凌牙はびくりと震える。

「あっ」

 ベビードールの裾が揺れる。先走りで既に布は染みができ、後ろまで液がこぼれて濡れている。

「璃緒に見本、見せてやるか? 変態お兄ちゃん?」

「んっ……!」

 IVの人差し指の先が、凌牙の内側に沈もうとする。だが、凌牙は両手で彼の身体を押しのけた。

「IV……だめだ。今日は、璃緒にしてやってくれ……璃緒は、はじめてなんだ……俺なんかに先に入れるなんて、そんなのだめだ、から……」

「妹思いのお兄ちゃんだこと」

「でも、凌牙、大丈夫?」

 IVの台詞を引き継いだのは璃緒だ。

「すごく、身体、震えてる……トーマス、凌牙をどうにかしてあげて」

「……仕方ねぇな」

 IVは椅子から立ち上がると、凌牙と璃緒にベッドに行くように指示した。璃緒のベッドは広い。凌牙と璃緒、ふたりが横になってもまだ少し余るくらいだ。IVはというと、部屋の隅に置いてあった自分の鞄を開けて中から何かを取り出した。掌に乗るサイズのピンク色の、コードの伸びたものはいわゆる、大人の玩具。……ローターだ。

「お前……なんでんなもん持ち歩いてるんだよ」

「璃緒と会って興奮しない自信がない。お前呼んでそのままホテルに直行

出来るように持ち歩いてるんだよ」

 さらりと、開き直って何でもないことのように言われてしまえば凌牙は納得せざるを得なくなる。

 ベッドの傍に来たIVが、挿入のために脚を開かせようとする前に、凌牙は「少し待て」と制した。

「なんだよ」

「これ……」

 凌牙が取り出したのはコンドームだ。

「璃緒とするなら、絶対つけろよ」

 言いながら凌牙はIVの性器にコンドームを器用につけていく。普段IVと凌牙でセックスをする際にはほとんど気にしたことはないが、相手が璃緒となれば話は別だった。IVの性器をもう一度口で愛撫して、適度に勃起させてゴムを被せる。

「……ほんと、妹思いの兄貴だこと」

 装着を確認すると、IVは凌牙を組み敷くようにベッドの上に押し倒す。脚を開かせると、IVは先走りを絡ませたローターを凌牙の後孔に遠慮なく突っ込む。

「ああっ!」

 指を使って奥まで押し込められる。尻の穴からスイッチに繋がるコードだけが伸びている状態だ。

「ふっ……くぅ……」

「こいつで少しばかり我慢してな」

 見せつけるようにスイッチを入れるIV。内側より迫る小刻みながらも確かな振動に、凌牙は身悶える。

「あああぁぁぁ!」

 悲鳴よりもずっと甘い声を響かせて。

「そこで妹の処女が奪われるのを眺めてるんだな」

「何それ。なんか、トーマスが悪役みたいな台詞」

「……俺は元から悪役だからな」

 自虐的に笑うIVに、思うところがあったのだろうか、璃緒は誘うように抱きついた。

「……お前も相当だな。もう、こんなに、ぐしょぐしょじゃねぇか」

 璃緒のベビードールも、股間のあたりがしっとりと水気を含んでいた。

「……だって、仕方ないじゃない。ずっと……待ってたんだもの。トーマスが、こうしてくれること。凌牙にはしてくれてた、私にはしてくれなかったこと」

 小さく凌牙の喘ぐ声が聞こえて、璃緒は身体にぞくりと興奮が奔るのを感じていた。凌牙の快楽が璃緒にも伝わって、更に秘所を濡らすのだ。IVは璃緒の濡れた場所を優しく撫でる。毛も生え揃っていない未熟な性器。だが確かに女のにおいを出している。

「ん……っ、ねぇ、お尻って、そんなに気持ちいいの?」

「入れるほうも入れられる方も最初はなかなか辛いがな……慣れれば、凌牙みたいに喘げるぜ」

「トーマスが凌牙をああしたんでしょう?」

「ああ……俺があいつを変えた」

「私も、変態にされちゃう?」

 首を傾げる璃緒の唇に、IVはキスをする。先ほどよりは深くはないが、決して触れるだけでもないキス。

「……その前に、こっちだろ」

 割れ目に指を滑らせる。ぐっしょりと濡れた肉の花弁をIVは巧みに愛撫していく。初めての感覚に、璃緒は肩を震わせる。

「あっ……んっ」

「最初は痛いかもしれないが、ここまで誘っといて、覚悟は出来てるんだろうな?」

 中心の突起を摘むと、得体の知れない感覚が璃緒の身体中を電撃のように駆けめぐった。男には存在しない場所への快楽は、いくら事前に凌牙からIVとのセックスについて根ほり葉ほり聞いていても予想もつかず、緊張が奔る。しかし璃緒はIVに弱気を見せるより、強く出ることを選んだ。

「痛がったほうが、興奮するんでしょ? トーマス」

「いらねぇこと凌牙に聞いたな。……まあいい」

 指が離れると同時に、IVに身体を持ち上げられる。向かい合った姿勢で、璃緒がIVの上に跨がる格好になる。璃緒の奥への入り口のすぐ下に、璃緒と凌牙が奉仕をしたときのように勃起したIVの性器がある。もうすぐに、待ちわびたそれが内側へと挿入される時が来る。

「ほら、大好きな変態兄貴の前で、狂っちまうほど気持ちよくさせてやるぜ!」

 IVはその時まで、やはり異常な状況による興奮を自ら煽る。そうして包み隠さずに歪んだ性癖を璃緒にぶつけるのだった。

 ローターによる刺激を与えられベッドの上でうずくまる凌牙の目の前で繰り広げられる妹と、思い人のセックス。

 はじめは璃緒もIVの質量に痛がって悲鳴の色濃い声を出していたが、元々受け入れるために作られている器官はすぐに濡れ、IVのものを受け入れる。色の濃い肌の上で、色白の妹の身体が上下に踊るように動くコントラストが強烈で、まるで自分も抱かれているような気分になると同時に、普段は気にすることもない璃緒の女の側面にも凌牙は男として興奮してしまう。

 璃緒のベビードールの赤いリボンが揺れる。青い長髪が乱れて跳ねる。

「あっ……あ、トーマス、と……ます、すごい……これ、すごい……っ」

「そんなにイイか? ほら、凌牙。どうだ? 目の前で妹が犯されてる気分は!」

「くっ……あっ……あぁ……」

 凌牙はその様を視界に映して、自分の性器を片手で扱きながら、同時にローターの入れられたままの後孔をも指で弄っていた。

「ふぉおっ……璃緒……っ」

「りょ、がも、気持ち、良さそう……とー、ます、ね、トーマス、は?」

 うっとりと、甘いアイスクリームのように溶けた瞳で熱っぽく璃緒は恋人を見つめる。IVは唇をにっとつり上げると、璃緒の身体を引き寄せ、結合を深めた。

「ああっ!」

「最っ高に気持ちいいぜ、璃緒、凌牙!」

 そうして璃緒と抱き合いながら、IVは彼女の中で射精を果たす。同時に璃緒の方にもたまらない快感が押し寄せた。目をきゅうとつむり、懸命のにIVの肩にしがみつく彼女の姿は子どものようだった。

 達する二人を見て、その快楽に共感しながら、凌牙もまた射精を果たす。目の前が真っ白になって、弾けるような感覚だった。

 

 

 

 璃緒とIVが肉体的にも結ばれたことを、凌牙は喜んでいた。

 あの後IVは人が変わったように凌牙と璃緒に頭を下げて謝罪を繰り返してきた。凌牙はもとより承知の上だったし、璃緒もまた、そんな彼の性癖をすべて受け止めたかったからこそあの作戦を計画したのだ。

 今ではもう、璃緒とIVがデートをする度に夜に凌牙が呼び出されることもなくなった。

 IVに密かに片思いをし、セックスをして彼の欲望をぶつけられることで独占欲を感じていた凌牙は寂しくもあったが、璃緒とIV、凌牙の愛する二人が幸せならば、凌牙にとってもそれを上回る幸せはなかった。

 今日も彼女たちはデートをしている。

 自宅で暇を持て余していると、璃緒から着信が来た。

「……珍しいな」

 デートの日に璃緒から連絡が来るのは珍しい。帰宅してからノロケを聞かされたり、写真を見せられるのはしょっちゅうなのだが、一体何の用だろうか。璃緒からのメールには、「今からここに来て」という指示と、住所が記してあった。迎えの要求だろうか。それにしても、珍しいことがあるものだと凌牙は首を傾げながらもヘルメットを被りバイクに乗る。

 そうして向かった先にあったものに、凌牙は目を点にする。

 そこはIVと凌牙がいつもセックスするときに使っていたホテルだったのだ。

 呆然としている間に璃緒が現れて、凌牙を中へと引きずり込む。いつもの部屋に通されて、扉がぱたりと音を立てて閉まる。

 ベッドの縁に脚を組んで腰掛けていたのは、IVだ。

「へへ」

 得意げに笑う璃緒に、IVも少し困ったような顔をしている。

「璃緒。どういうつもりだ」

「トーマスと相談したの」

 話を振られて、いたずらがばれた子どものようにぎくりと肩を揺らすIV。

「あのときの三人でのセックス、気持ちよかったって……私もそう思ってて、凌牙も一緒に気持ちよくなりたいなって思って」

「え? え?」

 妹の大胆すぎる発言に、凌牙はらしくもなくうろたえる。

「凌牙、私のこと好き?」

「あ、ああ」

「じゃあトーマスのことは?」

「それは……」

「ハッキリする! 好きか、嫌いか!」

「……好き、だけど」

 気圧されて思わず本人にも口にしなかった本音を漏らしてしまう。そんな凌牙の反応を見て、IVは笑いを堪えている。なんでこんなやつを好きになってしまったのだろうという後悔さえ過ぎった。

「でしょ? 私も凌牙が好き。トーマスも好き。トーマスも、私のことも凌牙のことも好きだって」

 ね、と確認とばかりに振られて、今度はIVが気圧されて反射的に頷いてしまう番だった。凌牙は目を瞬かせる。その返答は、期待していなかったものだったから。

「だから、三人で、みんなで一緒にしたほうが、気持ちよくなれるのは当たり前だって。……ね、凌牙。またいろいろ私に教えて?」

 そうねだる妹に、ノーと言うことが出来ない自分を凌牙はどうしようもない、と自嘲した。

 なぜなら凌牙自身も、あの一夜のことが忘れられなかったからだ。

 またセックスがしたいと思っていたからだ。

「すっかり歪んでるな、俺たち」

「お前のせいだろ」

「璃緒はどうだか」

 くすくすとIVが笑うのに、凌牙もつられて笑う。

 歪んだ恋人たちの夜は、終わらない。

 

2012.12.22

神代兄妹によるIVさんへのご奉仕ダブルフェラがかきたかったんです!!

Text by hitotonoya.2012
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