サスケが触手に絡まれる話

1.

 

 軽い浮遊感の後サスケを襲ったのは全身のチャクラが急激に減った疲労だった。伸ばした前髪の下の目がズキリと痛み思わず手でおさえる。折れた膝がついた地面からは、ヌチャと嫌な音がした。

 サスケの左眼に輪廻眼が開眼しもう何年も経つが、未だその力の全てを引き出すには至っていない。カグヤの痕跡を辿るといえども、各地に残された遺跡や碑文の意味を解読するだけで手一杯の時期のほうが長かったほどだ。最近になってようやくカグヤのしていたように異空間への転移が可能になったのだが、それさえも特定の場所を起点とした場合に限定され、たった一度転移するだけでチャクラを使い果たしてしまう有様だ。

 肩で息をしたサスケはようやく自分の放り出された場所を確認する。目に入る世界は薄暗く、まるで洞窟の中かどこかのようだった。肉のような濃いピンク色が敷き詰められた空間はカグヤとの戦いの中で見たことのない世界。サスケは舌打ちをする。転移の座標軸を読み間違えたらしい。新たな能力の会得には失敗の経験を積み重ねることも必要ではあるが、これほどまでに致命的なミスをしてしまことは、サスケにとって許しがたいことであった。

 呼吸を落ち着かせると、むわりと生暖かい空気が肺に吸い込まれていき咽そうになる。指先で地面を確かめる。どろりとした粘液のまとわりついた生肉を触っているような感覚はお世辞にも気持ちが良いとは言えない。むしろその真逆だ。そのうえ常に蠢くそれらがびっしりと敷き詰められているならば尚更である。軟体生物の触手のようなもの。サスケの視界にはそれしか存在しない、異様な空間である。どこまで続いているのかは分からないが、目的の場所ではない以上長居は無用。できることならば一刻も早く退散してしまいたい。だが異空間の移動はチャクラを大量に消費するため、連続で行うことはできない。サスケは神経を集中させ、チャクラを練ることに集中する。周囲への警戒はもちろん怠らなかった、はずなのだが。

「っ!」

 先ほどまでただ大人しくそこに在ったはずの地面が、サスケの脚を飲み込んでいた。正確には地面に敷き詰められていた触手のうちの一本がサスケの脚を絡めとっていたのだ。とっさに背中の剣を抜こうとした手も何かに引っ張られて動きを妨げられてしまう。シュルリと手首から二の腕まで絡みついてきたのも、もちろん触手の一本だ。

「クソっ……」

 触手は久々に餌を与えられたかのように、次々にサスケに群がってくる。まるで本当にサスケを捕食するような動きで締め付けられれば、いよいよ本気で対処しなければらなくなる。片手で素早く雷遁の印を組む。千羽の鳥の囀りに似た音が響き、チャクラによって生み出された雷はサスケの全身を烈しく包み込む。千鳥流し。弾けた閃光の後、脚と腕を捕らえていた触手は異臭を放ちながら黒い塊になって落ちていく。だが息もつかせぬ間に新しい触手が同じようにサスケの手足を拘束しにかかる。

 今ので完全に仕留められなかったのは失敗だった、とサスケは焦りに乾いた唇を舐めた。サスケのチャクラはもう殆ど残っておらず、瞳術どころか千鳥も今の一撃が精一杯であった。写輪眼を維持することもできず今のサスケは黒い右目と、巴模様の消えた左目で自分に絡みついてくる触手の動きを追うことしかできない。隻腕のハンディを解消するために鍛えた体術も、うねうねと流動的に動く触手にはどうも効果がないようで、引き裂くこともできないままサスケは手足の動きをすっかり封じられてしまった。

 外套をすり抜け、服の下にまで潜り込んできた触手はどのような構造をしているのか、異常なほどの力でサスケを縛り上げ、身にまとっていた布を引き裂いていく。黒の長袖長ズボンを着ていたサスケだが、肉色の世界の中に曝け出された肌色が目立つようになっていく。その上にも触手が粘液を塗りこむように這っていく。縄抜けの要領でどうにかならないかとサスケがもがいた時、また触手が伸びて首を締めるように絡みついてきた。このまま締めあげられたらまずい、と身構えたサスケの予想を裏切り、触手の締め付けは緩やかで、しかしその先端から伸びた針が、チクリと首の動脈に突き刺さった。

「なっ」

 毒針の類だと判断した次の瞬間にはもうサスケの全身から力が抜けていた。注入された毒には筋肉を弛緩させる効果があるのか、拳を握ることさえ叶わない。がくりとうなだれるサスケの身体は、すっかり触手に捕らえられ、完全に自由を奪われてしまった。

 こんな何処とも知れない場所で得体の知れない生物に命を奪われる恐怖をサスケは背筋に奔る悪寒と共に飲み込もうとする。サスケの肉体は忍界にとっては宝の山のようなものである。血継限界を擁するうちは最後の血、とくにその眼球。万が一にも誰かの手に渡ってしまうくらいなら自ら処理をしなければならない。

 だが触手の目的はどうやらサスケの命ではなかったようだ。ゆるゆると巻き付いているそれはサスケの動きを封じはすれど、致命傷を与えるつもりはないらしい。ただ肌の上を探るように撫でている。

 目的が理解できないサスケだったが、次の瞬間には引きつった声を喉から出していた。身体を持ち上げられ、脚を開かされ……その間にある性器に絡みついてきたのである。しゅるしゅると巻き付いて上下される動きはまるで勃起を促すようだ。こんな得体のしれないものにどうしてそんなことをされなければならないのか、懸命に歯を食いしばるもサスケの意志に反して性器は固さを持ち、勃ちあがっていく。更に触手の一本は尻の割れ目にまで滑り込んでくる。

「ひっ」

 ねっとりと粘液に塗れた感触にサスケは悲鳴を上げる。肛門を通り過ぎたと思えばすぐに先端が探しものを見つけたかのように入り口をつつき出す。導かれるようにして細い触手が何本もそこに集まりだした。払いたくても腕はがっしりと拘束され頭の上で縛り上げられている。並の忍なら睨まれるだけで卒倒するような鋭い視線を向けても、どこに何の器官があるのかさっぱり分からない触手には効果がない。

「クソっ、やめろ、触るなっ……あぁっ!?」

 にゅるり、と細い触手の一本がサスケの内側に侵入してくる。身体の中を弄られる嫌悪感に顔を歪めている間に、また一本、更にもう一本と触手は入が入ってくる。一本の太さは大したことないとはいえ、三本ものそれに好き勝手に動かれれば、身体の内側がまるで自分のものではなくなったかのような感覚が齎される。

「うぅっ……っくっ」

 異物の侵入に感じるはずの痛みは殆どなく、むしろぼんやりとした熱っぽい感覚が下腹部から全身を支配していく。感覚を麻痺させられているのは間違いない。ぐちぐちと粘液の音がサスケの身体の中から響いている。腹に力も入らない。抵抗むなしくサスケの腰は高く持ち上げられ、脚も更に大きく開かせられれば、後ろの穴が触手によって大きく広げられるのがわかった。

「あ、ああ」

 ぐいと広げられた穴の中に空気が触れる。その感覚に怯える間もなく、股の間にあった太い触手がその中目掛けて進んでいく。逃げられないサスケはただその時を待つだけだ。

「ぐあっ!」

 果たして勢い良くサスケの体内に侵入した触手は一瞬で狭い直腸内を埋め尽くす。粘液を腸壁に染み込ませながら、ぐいぐいと押し広げ、ピストン運動をするようにサスケの奥を激しく突く。

「ひぃっ、あっ、ああっ」

 何のためにこんな辱めを受けているのか。状況を理解できないままサスケは悲鳴を上げることしか出来ない。手足の指の間にまで触手はすりすりと入り込み、それら一本一本に巻き付いてきている。性器に絡みついている触手も内側を責めるものの動きに合わせサスケに快感を齎す動きをしている。前後を同時に人外の動きで責められれば、サスケの伸ばした前髪がばらけて隙間から涙の滲んだ瞳が覗く。痛みに耐える修行はしてきても、こんな強烈すぎる快楽ばかりを与えられる責め苦に慣れてなどいないのだ。気持ちいい、と感じてしまっている自分を認めたくなくてサスケは何度も首を横に振った。けれど身体はどんどん火照っていく。逃げをうつはずの腰さえ触手を受け入れるように揺れている。

「あっ、あぁっ、いやだっ、こんなっ……! くっそぉっ……!」

 激しく抜き差しされる度にゾクゾクと駆け上がる快感。粘液とはまた違う液体がサスケの腸内に勢い良く吐き出されると同時に絨毛のような触手でぞりぞりと性器まで一緒に擦られれば、サスケは呆気無く射精してしまう。がっくりとうなだれ吐精後の倦怠感に身を任せようとするのを遮るのはもちろん触手であった。責めを休める気などこの奇怪な生物には微塵もない。

「はっ、はぁっ……くっ、こんなっ……! ちくしょ……っ」

 また新しい触手が四方八方から伸びてきてサスケに絡まっていく。液体を出された腹の中が響くように熱い。そこから身体中が更に敏感になっていく。今度は細い触手が胸のほうに伸びてきた。胸を突き出すような格好を無理やり取らされる。触手は乳首の上にぬらりと粘液を塗りこむように滑って、場所を探すように同じところを何度か擦る。もぞもぞと蠢いた触手の中から現れたものに、サスケはひっと喉を鳴らした。両の乳首の上で触手から突き出たのは鋭い針だった。また何かを注射される、そう思った瞬間にはもう針は乳首の真上ほどの位置に突き刺さっていた。

「ひっああ……、あっ」

 どくん、どくんと何かが注ぎ込まれる。胸の周りがかっと熱くなり、次の瞬間からはむずむずと疼きだしてたまらなくなる。

「ひっ、なんだ、これっ……!」

 胸が意志を持って動いているのではないかとさえ思えるほどの疼きに、サスケは追いつめられていく。針を隠した触手は乳首を撫ではじめる。敏感になった乳首はすぐに赤く充血しぷっくりと腫れて固くなった。性器と同じように、触手は乳首に巻き付いて絞り上げていく。まわりの肉まで巻き込んでだ。まるで女の胸にするような行為をされれば、サスケの顔は羞恥に真っ赤に染まる。だが触手の愛撫は熱を持った胸にはおかしくなるくらいに気持ちが良かった。

「いや、だ、いやだ……っ、こんなっ……胸、までぇ……!」

 胸を揉みしだかれながら、肛門を押し広げられ奥を突かれる。性器は再び勃起して触手に好き放題撫でられ続けている。睾丸がおかしなほどに熱を持ちパンパンになっているのがわかる。

 何のためにこんなことをされているのか分からない。けれど気持ちがいい。

 一方的に与えられる規格外の快楽に、サスケの意識は飲み込まれていく。うぞうぞと蠢く肉色の触手が視界を埋め尽くしていく。

 

 

 

「あっ、あぁ、んっ……」

 甘い声が響く。ほんの僅かに残った理性が、それを自分のものとは認めたくなくてふるふると首を横に振れさせる。しかし溢れる涙は悲しみではなくあまりの快楽への歓喜が齎したもの。脱力しきった身体はふわふわとぬるま湯の中を揺蕩うように異形の生物に包まれ蹂躙され支配されている。

 サスケがこの空間に転移してからどれだけの時間が経ったか分からない。昼夜などこの空間には存在しない。ただただサスケは意識がある間もない間も身体中を攻められ続けていた。回復したチャクラを練る暇さえ与えてもらえない。精液ももう色を失って、達する度に性器からは透明な潮が吹き出すだけだ。だというのに飽きもせず触手はサスケの性器に絡まり先端を尿道にまで侵入させている。尿道の中をずるりずるりと触手が出入りし、無理やりに射精の快楽を引きずり出され、すっかり連動して快楽を拾うようにされた胸と後孔がひくひくと疼いた。

 長い間たっぷりと触手を咥えこまされ、何度も何度も粘液を吐き出された後孔は本来の機能を完全に忘れている。入り口は真っ赤に腫れて触手に触られるのを待ち望んでいる。迎え入れた中は奥へ奥へと触手を導こうと蠢いている。そうして直腸の終わりまで達した触手はトットッとリズミカルにサスケの腹を突き続ける。繰り返されるそれが何の前兆なのか、サスケはもう理解していた。

「あっ、くる、くるぅ、いっぱい……! やめぇ……!」

 半ばろれつの回らなくなった声で形ばかりの抵抗の意志を示しても触手の動きが止まらないことも分かっている。触手の奥のほうから何か丸いものがいくつもせり上がり、サスケの身体の中に押し込まれる。

「あっ、うぅっ、あああぁぁぁぁぁ」

 何度目かの感覚に上がる悲鳴。押し込まれたそれの数は正確には分からないが、下腹部が外から見ても分かるほど膨れている。触手はずるりと直腸の半ばほどまで下がると、細い触手がその周りをみっちりと埋め、栓をするようにサスケの肛門を塞いだ。何をされたかサスケにはもう分かる。この後時がくれば自分の身体から出てくるものを知っている。

 サスケの腹の中に産み付けられたのは、触手の卵だ。

 サスケの命を奪わなかったこの生命体の目的は、種の繁殖。サスケの身体はそのために生かされ、作り変えられている。試すように一度産卵されたあと、サスケは己の両脚の間から生まれてくる小さな触手の幼生たちを見た。おぞましい光景だった。直腸内を何本、何十本もの小さな虫が這いずりまわるような感覚。それさえも耐え難い快楽に変えられ気を失った。目を覚ました時、自分の身体に何が起こっていたか。その時の恐怖をサスケは忘れられない。

 そしてそれと同じことが、今もなおサスケの身に降りかかっている。

 ちゅう、ちゅう、ちゅぱ、ちゅぱと吸い付く音が聞こえる。触手がサスケの胸の周りに群がっている。吸盤状になった触手の先端がサスケの乳首を吸い上げているのだ。長時間の吸引に乳首は真っ赤に腫れ、木苺のように熟れている。胸もパンパンに腫れている。何度も針から注入された液体。それはサスケの胸を、触手の餌になる液体が生成できるように作り変えるものだった。

「ん、あぁっ、出る、また、出る……っ」

 吸引に促されサスケの身体がびくりと震える。限界まで引っ張られた胸の先端からぷしゅ、と白濁色の液体が吹き出す。まるでヒトの女が出す母乳だ。それと同じ成分かどうかは分からないが、サスケの胸から間違いなく出るはずのないものが噴出し、触手はそれを吸って成長している。繰り返されるそれは最早サスケにとって快感になっている。

 この触手状の生物を産み、育てる。それら一連のことがすべて気持ちの良いことなのだと、身体にイヤというほど刷り込まれる。

 最早触手に寄生されていると言っておかしくない状態になったサスケだったが、突如、再び首筋に何かを注射される。

「んっ!」

 ビクンと震える身体。どくんどくんと心臓が早鐘を打つ。それは今まで止まっていた血液が急激に流れを取り戻したような感覚だった。封じられていたチャクラが戻ってくるのだ。

「なっ、に……っ?」

 しかしたっぷりと侵された身体と頭で、サスケは触手の声のようなものを聞いた。幻聴だと思いたかった。だが脳に直接囁いてくるような何かは、この生物の意志であるのだと理解してしまう。種の繁殖がこの生物の目的。サスケの身体が繁殖の苗床として完成したならば、次に目指すのは分布を広げること。たとえば植物のタネが他の動物の体内に取り込まれ、移動した先で排出されることにより分布範囲を広げるように。サスケという来訪者を介してタネを……子を運んでもらおうというのだ。

 たっぷりと解され熟れた体内に産み付けられた触手の種。その繁殖力の高さはこの空間が触手で埋め尽くされていることからも明白である。

 まずい、だめだ、と微かな理性が抵抗するも、寄生生物に取り憑かれたように、サスケの頭は触手に都合の良い思考しか出来なくなっていく。元の世界のためにはサスケは間違いなく帰還しないほうがいい。この場所で朽ちて行くほうがいい。だというのに、触手は生物の帰巣本能を刺激していく。帰らなければ、帰らなければ。そう考えるのが自分の意思なのか触手の意思なのか最早分からない。

「木ノ葉、に、かえる……」

 かすれた声で呟いてしまえば、大量の触手がサスケの身体じゅうをびっしりと覆う。うぞうぞと手脚に、身体に這った触手はその色を肉のようなピンク色から黒色に変え、表面の質感をも変化させていく。擬態している。おびただしい量の触手に身体を飲み込まれながらサスケはそう理解した。びくん、と触手が激しくのたうって、動きがおとなしくなる。外から見れば今のサスケの格好は、ここに来たときと同じ黒の上下を纏っているようにしか思えないだろう。しかしその実それはすべて触手で紡がれた衣装であり、常にサスケの身体中を弄んでいるのだ。そして同時に四肢の動きを制限し、決して触手を引き剥がせないようにする役割さえ担う拘束具である。

「っ、う……あぁ……」

 服の中でも乳首を吸われ、後孔の入り口を撫でられ、性感帯へと開発された身体のあらゆる箇所に粘液を塗りこまれながら、サスケは瞳に力を込める。服の下で目立たぬ膨れた腹の中でどくんどくんと何かが脈打っている。諦めにも似た心地で瞼を閉じれば、軽い浮遊感が訪れる。

 そうして目を開けば、いつぶりだろうか、あの日転移を試みた森の中にサスケは立っていた。ドサ、と音を立てて膝から崩れ落ちる。たとえ場所が変わったとしても、触手の動きはおさまることを知らない。

「はっ、はぁっ……く、そぉ……」

 這いつくばりながらサスケは言うことをきかない腕を懸命に動かす。触手が余計なことをするなとばかりに締め付けを強めるが、簡単に屈するサスケではない。ガリ、と親指を噛み、流れた赤い血を地面に叩きつけると術式が広がる。口寄せに答えた鷹が現れ、サスケを心配そうに見下ろした。

「行け……っ」

 未だ自分の意識があるうちに、ナルトに連絡を。

 木ノ葉に鷹を向かわせてすぐ、サスケは意識を飛ばされる。倒れた伏したサスケの服の中で触手が蠢き、乱れた息が誰もいない森の中に途切れることなく吐き出され続けた。

 

2015.11.16

Text by hitotonoya.2015
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