鷹に持たせた手紙に予告した通りの時間にサスケは木ノ葉の里に戻ってくる。今は殆どの時間をこの世界ではない異空間で過ごしているサスケは、家族の元に帰るより先に火影の元に足を向ける。忍として任務に出ている以上、それは当たり前のことなのだが、最近はそこでナルトに要求されることが一つばかり増えた。
極秘任務の都合上、人払いを完全にしシカマルでさえ入れない火影室で、此度の調査の報告を済ませる。未だ見ぬ大筒木一族が異空間からこの世界を狙っている可能性が残っている以上、サスケの任務が終わることはない。調査する異空間もカグヤのものに、モモシキ、キンシキのいた荒廃した世界も加わった。とはいえ、輪廻眼でも読めない文書を木ノ葉の解析班が解読した実績を鑑み、サスケも一人で全てを背負うことなく以前よりは頻繁に里に戻るようになった。
その度に、ナルトから送られる視線。
今はもう、言葉にされずともその睨むような視線だけで、サスケにはナルトの要求が分かる。
サスケは襟元のボタンを片手で器用に外し、身体をすっぽりと覆っていた黒いマントを脱ぎ捨てる。ぱさりと乾いた音を立てて床に落とされたそれに目もくれず、次にその手をかけるのは白いベストだ。グローブも歯を使って抜き取る。一枚、また一枚と床に布が落ちていく。
火影室の真ん中、腕を組んで座る里長の目の前で、サスケは今や一糸纏わぬ姿で立っていた。
異常ともいえる光景に動揺のひとつも見せず、ナルトは椅子から立ち上がりサスケの元に歩み寄る。その眼差しは真剣そのもの。
戦争も終わり、五大国の協力も成され平和の訪れたこの世界で、ただ一人日々戦いに身を置くサスケの身体は、細身ながらもしっかりと均整のとれた筋肉がついている。その美しい肉体の中で、左腕が肘の上の部分から欠落している。普段はマントで隠されている全てをさらけ出して。
全裸のサスケをナルトが検分していく。頭のてっぺんから足の爪先までをナルトが見つめていく。針の一本刺された痕さえも許さないとばかりに。
十代の後半から、人生の殆どを放浪の旅に費やしたサスケの肌は、驚くほど日に焼けず白いままだ。
「っ……」
ナルトの指が、その上をなぞっていく。サスケは息を詰まらせる。ナルトの指の動きはまるで愛撫だ。大切な宝物に、傷がついていないか愛おしく撫で上げながら確かめている。そこに古傷の痕があれば、何年前のものかも覚えていないというのに睨み上げられる。殺意さえ籠められたその青い目に赤色がチラつく。ナルトの腹の内に共存する九尾のチャクラだ。
「サスケ、腕」
短く促されて、下げていた右腕を持ち上げる。そうすればナルトは目を見張った。腕で隠れていた脇腹の部分に、真新しい傷を見つけたからだ。気づかれないわけはないと知っていたが、無意識のうちに腕で隠してしまった。ナルトが眉間に皺を寄せる。この部屋でどんな重要書類を読んでいるときよりも深く。サスケは瞼を伏せた。
来る。
「っあ……!」
そう思った瞬間には悲鳴が喉から搾り出されている。
ナルトの手のひらが傷を覆うと、赤いチャクラが視認できるほど溢れ出し、内側に注ぎ込まれる。医療忍術で用いられるチャクラコントロール技術とは全く異なるそれは、注ぎ込まれた場所が灼熱を帯び、サスケの身体中の神経を刺激する。
元は尾獣と共存する人柱力故の自己治癒力だ。生命力に溢れた九喇嘛のチャクラを他人に分け与える技術の応用か、モモシキとの戦いでそれが『出来る』と分かってからナルトはサスケの身体の傷をこの赤いチャクラで治癒することに拘りはじめた。
しかし九喇嘛が心を開いた人柱力以外に尾獣のチャクラは強大すぎ、毒になるのも事実だ。無害どころか薬代わりにするように、他人に分け与えるためにチャクラを変換する際のナルトの体力の消耗も大きいはずなのに、なんとでもないふうにナルトはサスケに与え続ける。
大蛇丸がかつて評していたことがある。サスケの身体は他人のチャクラを受け入れることが、普通の人間より遥かに得意にできるのだと。酵素に対する基質が何とでも一致するようだと。サスケ自身にそんな自覚などしようがないが、呪印や重吾のチャクラに適合したり、柱間細胞による治療を受けて細胞の変質や拒絶反応を殆どしたりしなかったのが証拠であるらしい。
そんなサスケでさえ、この赤いチャクラによる肉体再生は声を抑えきれないほどの衝撃を伴う。もし初めに『これ』をされた時、サスケに意識があったならショックで死んでしまったかもしれない。些細な、放っておけば三日程度で治るほどのかすり傷程度でこの有り様だというのならば、全身をこのチャクラに包まれたらどうなってしまうのだろう。
瞼をきつく閉じながらサスケは実際にそうされたときのことを思い出そうとするが、自分がどういう状態に置かれていたのかちっとも覚えていなかった。
モモシキの術に捕まり、須佐能乎で防御するも押し切られ、圧倒的な熱量の前に全身の皮膚が焼かれていく鈍い音と鋭い痛み。呼吸もままならなくなり須佐能乎が弾け飛んだ瞬間、意識は途切れた。
次に目を開いたときには金色のチャクラの中でナルトの背中を見ていた。
空間が怒りに荒れ、ピリピリと肌を突き刺すようで、ふと焼かれたはずの身体を見れば、幻術にでもかけられていたかと見まごうほどに無傷の皮膚がしっかりと存在していた。息も吸える。吐ける。
目の前で衝動のままにモモシキの術に掴みかかっていくナルトを止めなければと、考えるよりも先に身体が動いていた。
全身の火傷を一瞬で治してみせたナルトは、しかしその治癒能力を他の者には、自分の息子にさえ発揮することはなかった。
サスケでなければ注ぎ込まれる烈しいチャクラに肉体が耐えられない。そういうことなのだろうか。
「……今回は、そこだけだ」
「ん」
ナルトの手のひらが脇腹から離れていっても、触れられ注がれたその場所はじくんじくんと熱を持ち疼いたままだ。身体中が火照りだして、自然に呼吸が荒くなる。のぼせた頬に朱が差すのを、ナルトが満足そうに撫でた。足が震える。腰が抜けてしまいそうだった。
「サスケ」
心臓がもうひとつできたみたいに熱い脇腹を押さえる右手に、ナルトの左手がぴったりとはりつく。指と指の隙間を指が撫ぜていく。乾いた包帯が巻かれた右手は今にも砕けそうな腰を支えている。
「ここじゃ嫌だ、って……いつも言ってんだろ」
「お前が我慢できねぇだろ」
そっちの方がだろ、ウスラトンカチ。
そう言いたかった唇は当たり前のように塞がれる。
机の上に置かれる書類の量は、来るたびに少なくなっている。仕事のやり方を変えたのか、あるいは要領を掴んできたのか。相変わらずカップラーメンのカラは重ねてあって、臭うからちゃんと捨てろと何度も言っているのに聞きやしない。そう指摘すればナルトは「お前が携帯持たないのと同じだってばよ」とため息を吐いてくる。サスケにとっては全然違う話だ。
裸の身体を抱え上げられて、サスケは執務机の上に置かれた。オレンジ色のナルトの上着が申し訳程度に敷かれている。そんなのあったってなくたってこんな場所では背中もどこもかしこも痛いに決まっている。それこそナルトが先ほど治した怪我よりもずっと。
だのにほんの少し、熱を持つ脇腹から腹筋をなぞられ、首筋に噛み付かれるみたいなキスをされるだけで快楽のほうが勝ってしまう。これも全部ナルトの強引な治療のせいだ。とはいえサスケもそれをすっかり合意で受け入れているのだから、どうしようもない。自ら服を脱いで裸になった時点でここまで至ることは必然だというのに。
割り開かれた脚の間に身体を入れてナルトが覆いかぶさっている。下手に暴れると積み上げられたゴミやら紙の束やらを全部倒してしまいそうだったのでサスケは大人しくされるがままになっていた。
動物か何かのように胸から顎にかけてナルトの舌が舐め上げる。唾液が付着し、水分がほんの僅かに熱を奪っていくのが気持ちいい。
「ん……」
くすぐったさに身をよじれば顔の半分を隠していた前髪が乱れて露わになる。遮られるものがなくなって左目がはっきりとナルトの顔をとらえると、それはみるみるうちに近づいてきて、改めて指で髪を払われて、手のひらで頬を包まれる。鼻先に唇を触れさせられる。至近距離でナルトと目があう。両眼と両眼の間に阻むものは何もない。たっぷりと見つめ合って、それから、唇をちゅうと吸われた。舌で舐められた。
硬くなりはじめた性器を通りすぎて、尻の間に指が入れられる。ナルトのものを長い間受け入れ続けたそこは、任務で暫く離れていてもなかなか愛される感覚を忘れてはくれない。里に帰る頻度を多くすれば、行為の回数も比例する。はじめは閉じていても、少しの間柔らかく触れられれば、今回もまたその穴はナルトの指をすぐに受け入れる。ナルトが唾液を絡ませた指が解していく。後ろへの刺激だけで性器が先走りを垂らしてその行為を補助していく。
「うぅ……あ、あ」
身体じゅうの熱が下半身に集中していくようで、その実どこもかしこも上気したままのサスケは小さく喘ぐ。唇や指を噛み締めたところでナルトに遮られてしまう結果にしかならないことを知っている。どんな理由であれサスケの身体に傷がつくことを、ナルトはサスケ自身よりも嫌悪する。そのくせに本来の用途とは異なるふうに身体に無理をさせて押し入ってくる強引さがある。……そんなところをサスケは嫌いになりきれないし否定する気持ちも起きずに可笑しくなるのだ。
感じる場所への刺激を与えるのもそこそこに、ナルトは指を引っこ抜く。身体の内側が恋しそうに指が抜けていくのを拒むけれど、その次に与えられるものが何かも熟知している。どくんどくんと身体中の血管が脈打っている。ナルトの性器の挿入を今か今かと待ち望んでいる。
結局のところサスケもナルトに抱かれたくて仕方ないのだ。孤独な時間を吹き飛ばしてしまうほどの接触を、皮膚の内側で感じる熱を。
ナルトの性器も待ちきれないとばかりに勃起しているのを、持ち上げられた両足の間からサスケは見た。ごくりと鳴った喉の音を、ナルトに聞かれただろうか。青い目を細めて、白い歯を見せて笑って、その上興奮したような息を吐いて、ナルトの熱が押し付けられる。
「っあ……!」
貫かれる。びくんと腰が震え、机の上にぶつかる音がした。
もう若くないくせに、日々の火影の任務で目の下に隈まで作っている有様のくせにがっついてくるナルトがサスケは嫌いではなかった。サスケ、サスケ、と囁く声と共に近づいてくる顔をよく見れば、ここ最近サスケが帰ってくるたびに隈が薄くなっている。
確かに、これまでの二人はどこかの歯車が食い違っておかしくなっていたのかもしれない。子どもの顔さえ分からなかったサスケに加えて、里にいるはずのナルトさえ家にロクに帰らなかったという。
底抜けに明るいような言動と、周囲を惹きつける力のあるナルトだが、その実は基本的になんでも一人でやりたがる性質をしている。それが独善的なものでなはなく、強い責任感由来のものであるから逆にタチが悪い。
全忍の協力を夢と謳ったナルトの、そんな相反する部分に待ったをかけるのが、同じく一人で何もかもを抱えがちであり、その生き方をナルトに正されたサスケだ。マイナスにマイナスを乗算するとプラスになる、そんな理屈なのかもしれない。
サスケが帰還する前後は、普段は亀の歩みのナルトの机仕事が異常に早くなる、というのはシカマルからもシズネからも耳打ちされている。彼らもサスケが里への帰還頻度を上げたことには機嫌が良い。露骨にいい顔をされると、まるで自分が火影をあやすためのオモチャみたいな扱いをされているようで少々不服だが、それでナルトの負担が減るならば、サスケの決断は良い方向に行ったと考えていいのだろう。
正反対のようでナルトとサスケはよく似ている。
共にどうしようもなく不器用で、なのに二人が揃えば何者も敵でないような、そんな気持ちが湧いてくる。子どもの頃に戻ったみたいに胸が高鳴る。
「何考えてんだ、サスケ」
「んっ」
腰を押し付けて奥の奥を突き上げてきたナルトに、流石に思考は中断される。
「久々だってのに」
「……お前のことだよ、ウスラトンカチ」
「ホントかよ」
いっそう脚を高く上げさせられて、腰を引き寄せられる。今まさにサスケは高揚している。ナルトのチャクラを注ぎ込まれた熱も、セックスの齎す火照りも、全て飲み込んでいくのはナルトと一つになっているという実感だ。魂レベルの渇望が満たされている。
乱れた髪をナルトがまたかきあげる。左頬を愛しそうに包帯の巻かれた右手で撫でる。快晴の空のように曇りない青い目が、撫でた親指の先にある眼を見つめている。
ゾクリと全身が震えて、射精すると同時に内側にも存分にナルトのそれが注ぎ込まれた。
瞼を閉じてもナルトの目の青さが焼き付いて離れない。
その瞳は、自惚れではないことが確信できてしまうほど愛に満ちていたからだ。
オフで発行する同人誌から「この部分単品でも読めるなー」と思ったのでエロ部分だけサンプル的に抜き出してみました。謎治癒能力ほんと謎すぎる…
Text by hitotonoya.2015