23次元ドリーム

 

 甘ったるく粘った空気が満ちている。ぐちゅ、くち、くちゃ、湿った水音がしとしとと四方から鼓膜を揺らす。ぬるりとした何かに肌を撫でられる感覚に、神代凌牙は目を覚ました。

「ん……」

 視界がぼやけて焦点がなかなか定まらない青い瞳を彷徨わせる。身体がゆらゆらと波に揺られているように不安定だが悪い心地は決してしなかった。やわらかな肉に包まれているような暖かさは、まるで母の胎の中、羊水の海を漂っているかのような記憶さえ思い起こさせる。……だが寝起きの悪い凌牙の夢見心地は、すぐに断ち切られることになる。

「おいおいおい、随分とだらしない顔しちゃってますねー。これが即堕ち2コマってやつですか?」

 薄笑いで煽ってくるのは凌牙のよく知る声。前世のそのまた前世からの因縁がなかなか断ち切れないベクターのものであった。椅子の上に足を組んで座って、何やら片手には本を持っている。読書でもしていたのだろうか。天敵ともいえるその存在を、凌牙はキッと鋭い眼差しで睨んだ。

「ベクター、それは俺の椅子だろう。ひとの部屋に勝手に上がり込んで、何寛いでやがる……っ!?」

「おやおや〜、よーやく気づいたのかよ、おせぇぞナッシュ」

 くつくつと笑うベクターの座る椅子は間違いなく凌牙の部屋にあったものだ。しかしどうだろう。ベクターの周りは赤やピンクといった肉の塊のようなものが一面にみっちりと敷き詰められている。それらがうねうねと触手のようにのたうちまわって、イヤな音を立て続けている。その上、いつの間にかその触手は凌牙の身体じゅうにも絡みついている。おそらくは凌牙の目が覚めるずっと前からだ。まるでいつぞやにドン・サウザンドの力によって拘束された時と同じような格好を凌牙はとらされている。

「こいつは……おいベクター、何のつもりだ」

「そりゃもちろん、今からてめぇを触手陵辱するんだよ!」

 得意げに指を突きつけてくるベクターに、凌牙はぽかんと口を開けた。言っている意味がわからない。

「ククク……てめぇみたいな生意気で気に入らねぇやつを屈服させるにはこうするのが一番らしいな」

 ベクターが掲げるのは彼が読んでいた本だ。どうやらライトノベルの一種のようだが、表紙のイラストが明らかに18歳以下が買っていい内容のものではなかった。

「俺だってバリアンの頃から人間界の研究はしてたんだぜ? Dr.フェイカーに集めさせた本が随分と役に立ってなぁ。現に、こういう本を参考にして間抜けな転校生演じてみたらまんまと遊馬はひっかかってくれたワケだしな。今回もこの本……23次元ドリームノベルズ! ここに書いてある通りのよからぬことで、テメェを堕としてやろうってことだ!」

「何ワケのわかんねぇこと言ってやがる! さっさとこんなふざけたこと止めやがれっ」

 もちろん凌牙は現在十四歳中学二年生。ベクターが手にした小説にどんな内容が書かれているかは知らない。

「その生意気な口がきけるのも今のうちだぜ?」

 小説の一節を音読するようにベクターが言うと、凌牙の顔の傍の一本の触手から鋭い針が伸び、プスッと音を立てて首筋に突き刺さった!

「いっ……!?」

 そこから何かを注ぎ込まれたとたん、凌牙の身体からみるみるうちに力が抜けていく。

「俺様は慈悲深いからな、痛みを感じないようにしてやったぜ。優しくしてあげますからねーナッシュちゃん?」

 脱力しきった四肢の上に早速触手が蠢いて、凌牙の服を乱暴に引き裂き、或いはその粘液で溶かして素肌に絡みついていく。いやらしい動きはかつてギラグに陥れられたときとは全く違う。陵辱する、という明確な意志を持って触手は凌牙の肌の上を動いている。

(気持ち悪ぃ、くそっ、身体がうまく動かねぇ!)

「んあっ、はぁっ、あぁん!?」

 凌牙は目を見開いた。気持ち悪いと間違いなく思っているはずなのに、自分の口から出たのは甘い喘ぎ声だったのだ。

「えっ、あっ、なんっ、だ、これぇ……っ! んんっ! や、ああっ!」

 耳を塞ぎたくなる、自分のものだとは思いたくはない声が、触手がぬぷぬぷと擦れる音と一緒に聴覚を責める。熱い息が唇の隙間から漏れ、身体中が熱を持っていくのが分かる。先程触手が打ち込んだ液体が影響しているのだろう。

 すっかり晒された胸の、普段は意識などしない乳首を触手が掠める。

「んっ」

 すると先端から細い触手がにゅるりと生えてきて、ぐるんと乳首を絞るように絡みついた。柔らかい凌牙の乳首をコリコリと小刻みに擦り、ほんのりとピンク色だったそこを濃い赤色に染めていく。

「あっ、そんなとこっ、あっ、ああっ?!」

 じんじんと熱を持ってきた乳首に、また新たな触手が近づいた。先端がぐぱぁと開いて細い針が飛び出る。先程首に打たれたときと同じような針だ。凌牙が何もできないのをいいことに、すっかり硬くなった両方の乳首の真ん中にそれが突き立てられる。

「ひっ!」

 短い悲鳴を出して凌牙は仰け反った。どくん、どくんと胸の中に何かが注ぎ込まれるのは心臓が鼓動するかのような感覚だった。ようやく針が抜けていき、一息吐く間もなく再び細い触手が乳首に絡みつく。

「っううあああああっ! あっ! なに、これぇ! あっ、ああっ!!」

(さっきまでとは全然違う! 乳首っ、すげぇ……気持ちいい……っ、俺、何考えて……っ、こんな触手に、絡みつかれて、ベトベトにされて、気持ち悪いだけのはずなのに……!)

 凌牙の理性とは裏腹に、乳首を擦られるたびに背筋にゾクゾクと快感が奔る。触手は乳頭だけでなく、まだ筋肉のつききっていない凌牙の胸のまわりの肉をも巻き込んで円を描くように絞っていく。引っ張られる感覚はまるで快感を高められるのと比例するようで、腰が浮ついた。そこで凌牙は己の性器が勃起しているのを知ることになる。

「あっ……そんなっ」

 性器が間違いなく硬くなっている。触手はまだそこをゆるゆると撫でているだけだった。

「くくっ、そんなに乳首気持ちいいか? まだまだ、お楽しみはこれからだぜぇ!」

 妙にテンションの高いベクターの前でも、凌牙は歯を軋らせることが出来うる最大限の抵抗であった。下手に口を開けば情けない喘ぎ声しか出せない。悔しくてたまらなかった。そんな凌牙をよそに、触手は蠢き続けている。今度は両脚を大きく開かされる。腰を持ち上げられるような体勢にさせられる。ズボンも下着ももうどこかへなくなっている今、凌牙の尻はベクターに丸見えだろう。

(尻っ……?! ……っ、あ、何か、触って……っ?! 中、入ってきてるっ、なんか、広げられてるっ、かき回されて、いっぱい……っ、気持ちわるい、そんなとこ、気持ちいいなんて、ありえねぇのにっ)

「うあっ! あっ、そ、だめ、あ、や……っ」

 細い触手がうねうねと尻の穴から凌牙の中に侵入してくる。何本もの触手が全ての方向に凌牙の狭い穴を押し広げながら奥へ奥へと進んでいく。触手の出す液体のためか、痛みはない。むしろ腸壁が擦られる刺激を得るたびに、ビクン、ビクン、と凌牙の身体は小刻みに跳ねていく。つま先がぷるぷると震え、喉が反る。どんどん性器が鎌首をもたげていく。

「あっ、中っ、こすれ、こすれて……いいっ、そこ、あぁっ、気持ちいいの、なんでっ……!」

「尻穴ほじられて感じちゃってまあ、元バリアンの皇がそんなんじゃ情けねぇなあ。ほら、でかいのくれてやるよ、もっと乱れてるとこたーっぷり見せてもらうぜ!」

 凌牙の中に入っていた細い触手がずぞぞと音を立てて引き抜かれる。ゾクゾクと駆ける快感に舌を出し、唾液さえ垂らす凌牙。最早その身体はさらなる快楽を求めてやまなかった。見れば、男性器を模した形になっている赤黒い触手が凌牙の尻に迫っている。それを目の当たりにして、嫌悪ではなく、期待を感じているのを凌牙は自覚してしまった。

「ああ……っ」

 火照る身体に熱い吐息。触手に満たされた空間に、凌牙はすっかり飲まれている。どくっ、どくっと鼓動が逸る。

 細い触手たちは凌牙の後穴の入り口をぐいと拡げて、太い触手の挿入を導いた。先端の粘膜が穴に触れる。怯えか、或いは歓喜に、びくっと身体が跳ねた次の瞬間には、ずっ、と音を立てて触手は尻の中に飲み込まれていく。

「ひあぁぁっ! しょくしゅっ、すごいっ、あっあぅっ、なか、いっぱい……みちみち、いってるっ……!」

(もう、だめだっ、こんなの、なんでだよっ、気持ちいい……っ! 気持ちいい、俺、尻の中にこんなの、入れられて……ぐちゃぐちゃにされて……! 感じてる……! 感じてる、気持ちいい!)

 ぽろぽろと涙を流しながら凌牙は身を捩り悶える。ぐちゅ、ぐちゅ、と音を立てて触手が奥を突くたびに恐ろしいまでの快感が頭から爪先まで駆け巡る。すぐ傍でベクターが見ているのもお構いなしに喘いで善がることしかできない。そういう風に、触手たちに、それを操るベクターにされているのだ。

 乳首を執拗に捏ねられながら、尻の中を突かれる。男性では普通考えられない場所を責められて、凌牙は快感の中で悶える。

「あっああっ、そこっ、そこだめっ、あっ、あっ、なんかっ、おかしいっ、ヘン、ヘンなの、来る、なんかくるぅ!!」

 凌牙の身体が大きく反り、小刻みに震える。呆けたように息を吐き、青い瞳がうつろに空を見つめる。性器こそ勃起したまま射精は果たさなかったが、凌牙は間違いなく絶頂に達したのだ。後穴からはどぷ、と粘った白い液体が漏れだしている。触手が放った精液のような液体だ。じんわりと侵蝕される中出しの余韻にも浸ってしまうほどに凌牙は快感に狂わされていた。

「くくっ、あーららぁ、射精しねぇでイっちまったか、ちょっと媚薬が強すぎたかな? だがまだ終わりじゃねぇぞ」

「ひんっ!」

 勃起した性器を透明な触手が包み込んで、呆けていた凌牙を快感の責め苦へと戻す。みっちりと凌牙の性器に密着し、微かに動くだけで内側の凹凸が絶妙に感じるように擦り上げる。女性経験のない、まだ十四歳の凌牙の身体にとってそれは未知のものであったが、それは極上に仕上げられた膣の中の感覚と同じであった。

「あっ、あっ、ああっ」

 透明な肉は、真っ赤になった凌牙の性器を彼自身に見せつけながら、ずる、ずると上下に動き出す。スピードをどんどん増していけば凌牙の腰が馬鹿のようにかくかくと動いていく。

「あひっ、ひっ、ああ、あうっ!?」

「ああああ、これだから童貞はだらしねぇ。まだまだこれからだってのによ」

 ベクターがパチンと指を鳴らすと、性器を包んでいた触手の内側で、別の色をした細い触手がにょきりと生えた。糸のようなそれが、何本かまとまって一直線にある一点を目指す。それは凌牙の性器にある穴……尿道口だ。

「えっ、あっ、何、何する気……っ、ああああぁぁぁぁ!」

 響く絶叫。触手自体の動きは驚くほど滑らかだったのだ。ずるぅ、と吸い込まれるように、細い触手たちは凌牙の尿道口の中に入っていったのだ。一本が奥まで、尿道を遡るように満たしていく。数本は先端に群がり、入り口を多方向から広げている。新しく降りてくる触手がその細い穴の中に入ることを助けるように。

「そんなっ、そんなとこっ、入るなっ、入るなぁっ、無理、無理ぃいいい!」

「無理じゃねぇだろー何本入ってるか数えてやろうかぁ? テメェにだってしっかり見えてるだろーほら、一本、二本、三本……」

「い、いうなっ、やっ、ああっそっちも、だめぇ!」

 性器全体を包む触手も動きを再会する。引っ張られるような快感と、それによる精液の奔流を押し戻すように責め入る細い触手。未だ子どもの域を出ない性器にいっぺんに押しかける感覚の嵐に、凌牙は情けなく涙を流しながら喘ぐことしかできない。

 もちろんその間も、尻の穴は乱暴に突かれ続けている。腸壁を突くリズミカルな音がトットッ、と断続的に鈍く腹の中から響く。耳を塞いでも身体の奥から発生する音は遮れないだろう。とはいえ今や凌牙は耳を塞ぐことすらできない。腕はほとんどが触手に飲み込まれている。指の一本一本にさえ触手が絡みつき、つぶつぶとした突起がブラシのようについた腹がくるくると巻きついて蠢き続けている。まるで触れた場所を全て性感帯に変化させるかのように、ぬめる粘液を塗りこんでいる。

「あああっあっああっ!」

「イきたい? イきたいよな? イかせてやろうか? イかせてやるよぉ!!」

 乳首をきゅうと捻られ、最奥を勢い良く突き上げられ、性器の感じる場所を触手が擦り上げる。尿道から一気に抜けていく細い触手の後を追うように、凌牙のびくびくと震えた陰嚢から遡る精液が、性器から勢い良く放たれた。同時に内側にも触手が勢い良く粘液を放つ。強烈な媚薬成分を含んだそれは、出されるたびに凌牙の熱を高め狂わせていくのだ。

「ぁあああああっ、はっあああ……っ、ああっ……」

 とろりと溶けた声が甘ったるく触手空間の中に響く。

 だが触手による陵辱は終わらない。萎える前の凌牙の性器に再び絡みつき勃起させる。尻穴に挿入された触手もまだまだとばかりに突き上げを再開し、細い触手たちも内側へと滑り込みはじめた。凌牙は触手たちにされるがまま、快楽にその身を委ねる。最早理性も正気も保っていられるわけがなかった。

 どれだけの時間陵辱は続いただろう。触手の粘液が塗り込められていない場所はないほどに、どろどろになった凌牙の身体は乱暴に、触手の肉でうめつくされた床に打ち捨てられる。凛々しかった青い瞳に光はなく、うつろに濁って開いているだけだ。

 乱れた青髪を乱暴に引っ張り、ベクターは凌牙の頭を持ち上げる。

「んー……昔から、てめぇのこういう乱れた髪は好きだぜ。ボロボロにしてやってるって実感がわいてくるからな」

 頬にかかる髪を払ってやりながら、ベクターは唇をつりあげた。実に気持ちがいいとばかりに。

「さぁて、触手にたっぷりと楽しませてもらっただろ? 今度は俺様に跪いて、楽しませてもらおうじゃないか」

 持ち上げていた髪を乱暴に振り払うと、凌牙は再び地面にひれ伏した。ゆっくりと顔を上げる凌牙にベクターはズボンをくつろげて性器をとりだす。凌牙はそれを見ると、操られたように手を添え、顔を近づけた。

 

 

 

 差し込む朝日の眩しさにベクターはぱっちりと目を覚ます。

 新しい朝が来たのである。カーテンの隙間から容赦なく直撃する日光は、これ以上夢を見るには耐え難かった。

「……夢かよ!! なんつー夢だよ!!」

 ベッドから上体を起こすとベクターは盛大に自分に突っ込んだ。いくらナッシュ憎しでナッシュを屈服させてやりたいと思っていても、あんな夢を見てしまうなんて。しかしベクターにはその原因には心当たりがあった。ベッドサイドに置かれている小説は、23次元ドリームノベルズ……いわゆるエロ小説である。人間世界に潜入するための参考としてDr.フェイカー経由で調達したその本には、気に入らないヤツはとにかく陵辱し快楽に堕として屈服させるというストーリーのものが多い。

 実際ライトノベルを参考にして真月零のドジな転校生キャラクターを作り見事に成功したベクターとしては、こうすればあの憎いナッシュも屈服させられるのではと多少なりとも考えてしまっていた。

 そんな妄想をしながら睡眠に入ったせいだろう。そういえば展開もあまりにも都合が良すぎて、もし現実のナッシュ本人が相手だったとすればあそこまでうまくいくとは思えないものだった。

「……まあ、実際はやらねぇけどな、あんなこと」

 誰も見ていないが言い訳するように肩を竦めて、ベクターはベッドから立ち上がろうとする。しかし、

『待てベクター!』

 何者かの声に制される。聞き覚えのあるその声はベクターの身体の内側から響いている。

「なっ、ドン・サウザンド?! てめぇ、生きてやがったのか?!」

『細かいことは気にするな。それより、このままどこかへ出かけるのはまずいぞ。お前の下半身を見てみるがいい』

 いつかのように忠告されて、素直にいうことを聞いてしまうベクターは布団を持ち上げて己の下半身を見る。そこには見事にテントの張られた己の股間が存在していた。

 ベクターは頭を抱えた。そうして、ナッシュへの逆恨みのセリフを叫びながら、トイレに駆け込んだのであった。

 

2015.01.03

新春初夢ベクターみたいなのを意図して書いたので夢オチでまとまりました。ラノベはカイト様のアカウントで勝手に通販しているという裏設定なども妄想しました。

Text by hitotonoya.2015
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