WDCの一日目の規定時間が終わり、凌牙はハートピースを手に家に帰る。一日中、いろいろな場所を探したが、IVに出会うことは叶わなかった。他のデュエリストとの戦いにも凌牙は手を抜くことはしなかったが、凌牙の心は何よりもIVとの再戦を待ち望んでいるというのに。
「明日こそ……必ず見つけ出してやる」
ぎゅっとハートピースを握り締め、凌牙は呟く。ポケットにそれを仕舞うと、目の前のコンビニエンスストアのビニール袋に手をかけた。テーブルの上に置かれたそれは凌牙の今日の夕食だ。中身は――よく覚えていない。適当に掴んで適当に買ったコンビニ弁当だ。あたためますか、と店員に聞かれたのでおそらくあたたかいものなのだろう。割り箸を取り出して、次に弁当を取り出す。ゆらりと液体の揺れが手に伝わる。うどんかラーメンか何かだろうか。
「……ッ」
袋から完全に出たそれの、パッケージにかかれた文字に、凌牙は愕然とする。
フォー。
ベトナムの麺料理だ。食べたことはあるが、今はこんなものまでコンビニで売っているとは。否、問題はそこではない。料理の味が口に合うかでもない。
IVをを求めすぎて、無意識のうちにこんなものを求めてしまったことが、凌牙にとっては屈辱的であり、同時に恥ずかしくてたまらなかったのだ。
「なんで、こんなもん」
舌打ちをし、凌牙は苛立ちをあらわにする。破るように乱暴にパッケージをはがし、蓋をあければ湯気を立ててそれは透明なスープの中にゆらゆらと浮いていた。フォー。名前を意識するだけで、あの男の顔が浮かんでしまう。
「クソッ」
ばん、と箸をテーブルに叩きつけ、凌牙はフォーから目を逸らす。頭の中に過ぎる影を振り払おうとしたとき。
「いけませんねぇ、食べ物に当たるとは」
「!!」
耳の近くで囁かれて、ぎょっとして凌牙は椅子から立ち上がった。振り返ればそこには、凌牙が探し求めていた男が――IVが笑いながら立っていたのだ。
「てめぇ、どうしてここに!」
「さあ? そんなことより、ほら」
怒鳴られるのも気にせず、IVは凌牙の背後のテーブルの上におかれたフォーを指差す。つられて凌牙がそれを見れば、容器がかたかたと風もないのに揺れている。
「なっ」
凌牙が驚いて目を瞬かせた瞬間、容器の中から麺が飛び出し、凌牙の身体に絡みついた。
「なんだよコレっ……!」
普通ならば簡単に千切れるであろうフォーは凌牙がいくら引っ張ってもびくともせず、じっとりと湿った感触を凌牙の肌に伝える。
「食い物の恨みはおそろしいと言うでしょう?」
「意味がちげぇだろ!!」
IVは見物を決め込んだのか、凌牙の椅子に座りくすくすと笑っている。当然、助けてくれる気はなさそうだ。――凌牙もIVに助けを求める気などなかったが。
凌牙がどうにか拘束から逃れようともがいているうちに、絡みついたフォーはにゅるにゅると動き服の中にまで入り込んでくる。
「くっ……!」
シャツの下、ズボンの中。ところかまわず肌の上を撫で回していくそれに、凌牙の背筋におぞ気が奔る。懸命に抵抗する凌牙だが、フォーの拘束は強まるばかりで、床にしりもちをついてしまう。
「痛っ!」
その隙にフォーは更に勢い増して凌牙に絡みつき、ビリと音を立ててシャツを引き裂いてしまう!
「なっ?! ふざけんなっ!」
麺にいいようにされる自分が恥ずかしくなって凌牙は声を荒げるが、既にフォーは身体じゅうに巻きつき蠢いている。
「ハハハ、いい格好ですねえ凌牙」
「IV、てめぇの仕業か……! さっさとほどきやがれ、こんなんじゃなくてデュエルで勝負しろっ!」
見下ろして笑うIVはしかし、違いますよと首を振る。
「さっきも言ったでしょう、こうなっているのはそのフォーの意思です」
「てめぇもフォーだろうが紛らわしいんだよ!」
そんなやりとりをしているうちに、麺の方のフォーは凌牙の服をどんどん脱がし奥へ奥へと侵入していく。ぬるり、と湿った麺が肌を撫で、形容しがたい感覚が凌牙の身体に駆け巡る。フォーはついに凌牙の性器にまでまとわりつくと、ゆるゆると扱き始める。
「っ! やめっ……!」
快感を覚えはじめる前に、フォーは尻のほうまで伸びていく。最奥の入り口をつつかれる感覚。まさか、こんな麺類にそんな場所への侵入を許してしまうなんて――。
「やめろ――ッ!!」
誰へともなく懇願する悲痛な叫びを、見下ろすIVは意地悪く唇を吊り上げながら聞いていた――。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
がばり。凌牙は絶叫とともに飛び起きる。ガタンと椅子が揺れる音。あたりを見回す。そこは間違いなく、見慣れた自分の部屋の中だった。自分の身体を触ってみる。きちんと服は着ていたし、どこも濡れても破れてもいない。どうやら家に帰ってすぐ、そのまま寝てしまっていたようだ。
「それにしてもなんつー悪夢だ……」
凌牙は溜め息を吐きながら椅子に座りなおす。この鬱憤は明日こそIVを見つけ出して晴らしてやらねばらならい。ぐぅ、と腹の虫が鳴る。まだ夕飯を食べていなかった。テーブルの上を見れば、コンビニの袋に入った何かが置いてあった。息を呑んで、凌牙はそれに手をかける。――取り出された中身は当然、フォーだった。
書いたのは2011年ですがサイトに載せたのは2013年の8月です。長い間pixiv限定公開(笑)でした。ベトナムでフォー(麺類)食べまくってきたので記念に…(笑)
Text by hitotonoya.2011