邪道皇ベクターのよからぬお戯れ〜友情編〜

 

 深淵から意識が浮上する。

 はっきりとしない視界、くらくらとする頭、身体中をどろりと包む倦怠感。忌々しいそれらから、また気絶してしまったのだと知り海上王国の統治者たる青紫の髪の少年……ナッシュは歯を軋らせる。寝台と身体を固定する鎖がなくても、身体は自由に動かないだろうとさえ思えた。

 ベクターに取引を持ちかけられ、半ば騙されるように捕らえられ、辱めを受け続けてもうかなりの時間が経過しているはずだった。寝台に仰向けになったまま、自分の身体をにらみつける。胸に控えめに、だが存在を主張するように輝く金の装飾は相変わらずそこにある。それを目にする度に、ナッシュは絶望を感じる。

 今は部屋にナッシュ一人しかいないが、出入り口は厳重に封鎖されている。

 乳首にピアスを通されてから、ナッシュの前に毎日現れるのは女性たちだけになった。もう男が相手でなくても逃げられることはないと判断されたのだろうか。ベクターの忠実な僕である彼女たちに、ナッシュは毎日丁寧に肌の手入れをされるのだ。

 ナッシュの国でも式典の前など、身を清めるために侍女たちにそうされることはあった。だが彼女たちの手つきはそれとは似て非なるものだ。初夜の前の妃のように入念な行為は、肝心な箇所には触れないものの、身体中の性感帯を開発されたナッシュにとっては快楽を覚えてしまうのに十分すぎるものだった。

 特にこのピアスを通された乳首に施された調教は激しく、以前にも増して敏感になってしまっている。触れられるだけで性器と身体の内側の方が、ずぐりと熱を孕む。

 一方後孔は柔らかさを保つためか、入り口を少し解されるだけで、前のように腸壁を抉るような張形を差し込まれることはなくなった。だというのに、すっかり性感帯へと変質させられてしまった直腸は、満たされることを望んで疼く。

 ナッシュは己のそんな身体を自覚しながら、「欲しい」と思っても決してそれを口にすることはなかった。女に感じさせられてしまっているだけでもナッシュの矜持は傷ついているというのにそんなことを懇願できるわけがない。女たちに愛撫される間、ナッシュは火照る身体を持て余しながら……それでも確実に齎される肌への、特に乳首への刺激に悶え、意識を失わされるのだ。

 ……そうして昨日もまた、ナッシュは気絶させられてしまったらしい。

 もうここに連れてこられてから、ナッシュが目を覚ました回数は両手と両足の指をつかっても数え切れない。時間の感覚は既に正しいか判断できず、昨日が本当に昨日なのかさえ分からない。

 ナッシュが正しく考えられることは、ベクターに囚われた友のことだけだ。

「ドルベ……」

 その名を、その響きを忘れていないことに安心する。彼の笑顔が思い出せることに安堵する。その瞬間だけが、ナッシュにとっての現実だった。そうであってほしかった。

 ドルベをも失いたくない。その一心が、ナッシュを支えていた。

 

 

 

 その日もベクターの侍女たちが部屋に入ってくるが、彼女たちの様子が普段と異なっていることにナッシュは気づいた。ゆっくりとナッシュの横たわる寝台に近づいてきた彼女らは、寝台から延びた鎖を外していく。立ち上がることを促される。またあの熱の籠もった部屋に連れて行かれて、口を使って男のものをくわえさせられるのだろうかと思えば、目隠しをされず部屋の外に出されてナッシュは驚いた。

 ゆっくりと歩かされてたどり着いたのは豪奢な浴場だった。今まで部屋で身体を拭かれたり、簡易な風呂に入らされることはあったが、それこそ王……この国ではベクターが使うような規模のものに入れられることはなかった。そこで侍女たちに身体を隅々まで洗われる。色とりどりの花や薬草を浮かべたぬるめの湯の中に長く浸からされる。花のにおいが肌に染み込んでいくような感覚にむずがゆさを感じていると、ふやけてしまう前に湯からあがらされる。濡れた身体を布で拭く自由さえ与えられることはなかった。侍女たちが全てを淀みない動きでこなしていく。

 その後は、元いた部屋と別の部屋に連れて行かれる。これも初めてのことで、今日はナッシュは目を見開いてばかりだ。元の部屋よりも小さな部屋だったが薄暗く、香のにおいがたちこめているなど雰囲気はよく似ていた。ベッドがあり、敷布の上に横たえられ、身体中に香油を塗られてマッサージをされる。敏感なところを擦られれば身体が小さく跳ねたが、いつもよりは激しくない。だが尻を手で割られるようにされ、腰を高く持ち上げさせられると、ぬるりとした液体のようなものが窄まった後孔から内側に注入されたのが分かった。

「なにっ……」

 ただ、それだけだ。ナッシュが問いかけてもベクターの従順な僕たちは決して声を出すことはない。

 じわじわと奥へ染み込んでいく何かの感触に怯えと……そして僅かな期待を抱いてしまう。そうして身体が熱くなってきたところで、ナッシュの肌の上を撫で回していた腕は離れていった。

「ナッシュ様」

 侍女のひとりに名前を呼ばれる。

「お召しください」

 差し出された白い布に目を見開いた。

 それは本当に「布」で、服とは言えないような代物だった。妖艶な踊り子が身にまとうような紗だ。だがもうずっと全裸で過ごすことを強制されていたナッシュにとって、それは本当に驚くべきことだったのである。

「こんなもの、どう着ればいいんだ」

「我々にお任せ下さい。これからベクター様の玉座の間にお連れいたしますので、美しく着飾れと命じられています」

 ベクターの名を聞き、ナッシュの目に一瞬鋭い光が戻る。

「ベクターが……?!」

 忘れもしない。この生活を始めることになった初日と、胸にピアスをあけられた日。たったそれだけが、ナッシュが単身乗り込んだ敵地でベクターと会話した時だった。それなのに彼の狂気は今でも肌が震えるほど冷たく鮮明に思い出すことが出来る。その彼が、初めてナッシュが通されたときと同じ場所で会おうというのだ。何かあるに違いない。もしかしたら、ここから解放されるかもしれない。ベクターの出した条件は「言うことに大人しく従っていれば、ドルベとペガサスのマッハ、そしてナッシュ自身を生きたまま国に返す」ということだったのだから。だが狂気の王と称されるベクターのこと。そう簡単にいかないことはナッシュも十分に分かってる。

「……お召し替えが終わりました。ナッシュ様」

 ナッシュの思案は侍女の声で打ち切られる。柔らかな布はさらさらと肌触りが良く、高級品だとすぐにわかる。大きな鏡を目の前に差し出されれば、そこに写っていた姿にナッシュは背筋を凍らせた。

「………っ」

 所々に施された金糸の刺繍が見事な紗は長く首から踝まで延び、ナッシュの身体にまとわりついているが、ほとんど服としての機能を果たしていなかった。結び目を軽く引っ張れば簡単にはがれおちてしまいそうなほどの危ういバランス。局所をかくしてはいるが明るい場所に出れば透けて見えてしまいそうだった。その上胸に通された金環は布で覆われることなく、さらけ出されている。細かな金細工の鎖が環にとりつけられ両胸で揺れていた。見慣れた己の身体よりずっと細く、それでいて艶めかしい色香を放つ鏡の中の像からナッシュは目を逸らした。震える身体を両腕で抱きしめる。しゃらりと腕に金の鎖が振れた。

(なんだ……これは……)

 鏡の中に映っていた己の姿が、瞳が、色香で男を惑わす娼婦のように見えたのだ。

 まだ誰にも身体を許していない。性感帯を開発されても、己の本質は変わっていない。そう信じていたのに。

 己の瞳にどろりと香る蜜の色を見て、ナッシュは恐れずにいられなかった。

 身体の奥が……腹の中がずくりと熱くなる。乳首は既に真っ赤に染まって、白い肌と紗の中で目を引いた。金のピアスが嫌でも視線をそこに注がせる。

「っあ……」

 にわかに呼吸が苦しくなり、ナッシュは大きく深呼吸をした。侍女たちは何も言わず、彼が落ち着くのを見計らって部屋の外へと連れ出した。

 向かうはベクターのいる玉座の元へ。

 

 

 

「ベクター王、準備が整いました」

「よし、入れろ」

 従者の声が重なり、ベクターの声が響くと扉が開かれる。玉座にゆったりと腰掛けるベクターの姿にナッシュは表情を険しく歪めた。侍女二人に付き添われゆっくりと歩みを進める。ヒールの高い靴を履かされて、纏わされた悪趣味な紗も足下まである。逃走をされぬよう計算してのことだろうが、そもそも長期間ずっと監禁されていたナッシュの筋力は衰え、逃げ切ることは不可能だ。余計すぎるほどに念には念を入れるベクターは意地悪い。

 広々として明るい玉座の間は、薄暗い場所での生活を強いられていたナッシュにとって眩しく、目を細める。そうしてベクターの視線が自分ではなく、玉座のまっすぐ前に向いていることに気が付いた。そこにあったのは、大人三人ほどでもゆったりと眠ることができそうな大きな寝台。白い布が敷かれている。こんなものは以前はなかったはずだし、こんな場所にある意味が分からない。

 ナッシュが混乱していると、ベクターの紫色の視線がナッシュの方を向いた。頭からつま先まで、舐めるように見つめられる。先ほど見せられた鏡に映った己の姿を思い出すと、ナッシュは羞恥と悔しさで身体が熱くなった。

 そうしてベクターの目が、ナッシュの視線を誘導するように動く。それはナッシュとは、玉座を挟んで反対側にある扉の方だった。

 女性が三人立っている。

 そうナッシュははじめ認識した。左右の女性は今ナッシュの両脇に控えている侍女と同じ格好をしているので、ベクターの僕なのだと分かる。だが中央に立っている、白い紗を纏い高いヒールの靴を履かされた女性は。

「ぇ……」

 絞り出すような悲鳴を上げたのは、果たして「どちら」だったのか。

 ナッシュは目を見開いた。そこに映る「女性」もまた目を見開きナッシュを見ている。

 銀の髪と同じ色の瞳はナッシュの良く知るものだった。幼少の頃から忘れたことがないものだった。そのはずなのに、一目見てどうしてナッシュはその持ち主を「女」だと思ってしまったのだろう。

 背筋が冷え、膝が震える。

 だって彼の瞳はそんな色に濡れていただろうか。

 彼の全身から漂う雰囲気は、そんなにも艶めかしく美しいものだったろうか。

 そうして脳はようやく、見つめ合った「女」……否、「彼」が自分と同じ格好をしていることを認識する。唯一の違いは胸に金環が輝いていないことくらいだろうか。だがそれがなくとも、「彼」がどういう扱いを、この場所で受けてきたのかナッシュには手に取るように分かった。

 互いに釘付けになっている二人を見、ベクターはにいと唇をつり上げる。狂王の仕込んだ余興は今日、完成を見せるのだ。

「ナッシュ」

「ドルベ」

 互いの名を呼ぶ声は掠れていた。

 あんなにも助けたいと思っていた友は、既にベクターの手の中で自分とともに踊らされていたのだ。

「……おやおや。待望の再会だというのになぜそんな顔をする? ナッシュ王、それに英雄ドルベよ」

 ベクターが笑いを堪えず言うとナッシュとドルベはベクターの玉座の前にまで歩かされる。そうして玉座の脇に控えていた兵士に強い力で突き飛ばされた。筋肉の落ちた身体とバランスのとれないヒールでは、ふたりとも用意された寝台の上に倒れ込むしかない。

「さあ喜べ、これが我の最後の暇つぶしだ」

 頬杖をつきながら、ベクターが見下ろす。

「今までの調教の成果を、思う存分発揮しろ。お互いにな」

 それは絶望的な宣告であった。

 ベクターはナッシュに、ドルベとセックスをしろと言っているのだ。ドルベは大切な友である。彼のことは大切だが、性欲とは無縁のところで築いていた関係であったはずだし、ナッシュにドルベと交わりたいなどという気持ちは一切なかった。

「ふざ、けるなっ」

「口を慎めナッシュ王? まだお前たちを解放したわけではないぞ。生きたまま全員国に帰りたければどうすればいいか……散々教えただろう

、その身体に」

「くっ……」

 今まで受けてきた仕打ちをベクターの紫色の瞳に映し出されたような錯覚に、ナッシュは歯噛みした。

 なんとか体勢を整えようと、上体を起こそうとしたとき寝台の上でドルベの指先と指先が触れあう。

「あっ……」

 思わず弾かれたように手を引いてしまったのは互いにだった。そうして改めて、ドルベの姿を見る。間近で見れば、見間違いようのないほどに確かに男の身体をしている。なのに先ほど触れた指は、一瞬だがとてもなめらかな感触をナッシュに伝えた。身に纏う紗や、この寝台にかけられた羽毛の入った布よりもきっと触れ心地が良いだろう。とても剣を握り、日々研鑽に励む騎士の指とは思えなかった。

「ドルベ……」

 胸が苦しくなったナッシュは確認するように名を呼ぶ。

「ナッシュ……良かった。生きていてくれたんだな」

 対してドルベはナッシュを励ますように微笑んでくれた。だがその瞳は震えていた。彼もまた、ナッシュが抱く恐怖と同じものを心に抱いているのだろう。

「ああ……」

「だがどうしてここに……いや、それを訊くのは、野暮か」

「ドルベ……お前も、生きていてよかった」

 無事で、とは言えなかった。ドルベの懐かしい、聞きたいと願い続けていた声を耳にすれば、心も身体も熱っぽくなっていく。どきどきと鼓動が逸る。色素の全体的に薄いドルベは純白の紗を纏わされては寝台の中にとけこんでしまいそうだった。だがそれを許さないのが薄く色づいた頬と、紗から透ける熟れた乳首。甘い香りが誘うようにドルベの肌から漂っている。頭がくらくらした。

「ドルベ……っ」

 こみ上げる切なさにナッシュは涙さえ瞳に滲ませる。そっとドルベがナッシュの手をとり、引き寄せると身体を抱きしめてくれた。

「ナッシュ……王である君がこんなことを……私のせいなのか?」

 ドルベの手が胸に通されたピアスにふれる。ビクンと肩が跳ね、小さな悲鳴をナッシュはあげたがなんとか堪える。すまない、と小さくドルベは謝ってきた。

「違う……お前のせいじゃない、俺はただ、お前まで殺してしまいたくなかったんだ」

 埋められたドルベの胸元の肌は吹いつくようになめらかだ。

「ここは私に任せてくれ。キミは何もしなくていい」

 言うとドルベはナッシュの紗をかき分けながら、かがみ込んだ。彼の視線にあるものは、ナッシュの性器だった。

「ドルベ」

「こうすれば、ベクターも満足するはずだ。そうなれば……一緒にここから帰れる」

 未だやわらかなナッシュの性器に手を添え、指でやわやわと刺激を加えていく。

「なにを……っ!」

 ナッシュが小さな悲鳴を上げている間に、ドルベはそれを口で咥えてしまった。

「ひっ」

 反射的にナッシュは股間に埋められたドルベの顔を引きはがそうとする。今は両手も両足も自由だ。だがそのとき、ナッシュは気づいてしまった。

 やわらかくあたたかく包み込まれたドルベの口内。性器から伝わるその感触に、覚えがあるような気がしたことに。

 ドルベは性器を咥えながら、ナッシュを上目遣いで見た。銀色の瞳は驚愕に見開かれていた。だがやがてそれは、とろりとろりと融けていき、喜色めく。

 友のそんな顔を正視できず、ナッシュは瞼をきつく閉じる。ねっとりと唾液を絡ませ愛撫をするその舌の動きは、以前ベクターの僕にされたものを思い出させ、脳裏にその熱や息づかいまでが蘇る。否、これは……。

「そうか、そういうことだったのか」

 ちゅるりと音を立ててドルベはナッシュの性器から口を離すと、呟いて自棄をおこしたように笑った。響く声に、ナッシュは目を白黒させるばかりだ。

「ドルベ……?」

 ドルベは愛しそうに固さを持ち始めたナッシュの性器を撫でた。

「……良かった」

 何が、と問いかける前に敏感な箇所を指で擦られてナッシュはびくんと跳ねる。ドルベの与える刺激はナッシュの感じる箇所を的確についてきて、性器を彼に触れられることが初めてだとは到底思えないほどだった。

「ナッシュ……キミが相手で本当に良かった」

「ぅあっ!」

 再び性器を食まれる。舌と手を巧みに使いドルベはナッシュの身体を喜ばせた。ドルベの口の中で自身の性器が質量を増していくのが分かる。寝台の上で腰が引け、身体が震える。白い布を懸命に握りしめる。声を耐えはするものの、ドルベが与えてくれる快楽から、何故か逃げる気が起きない。

「ふぅっ……、う……ドルベ、もうっ」

 射精の欲求が出てきた頃に、ドルベはナッシュの性器を口から出した。唾液と、おそらくナッシュの先走りにも塗れた唇は赤く染まり、柔らかく弧を描く。艶めいたその表情に、股間で暴れていた熱がさらに高まる。

「ナッシュ、良かった。本当に。私の初めてはきっとすべてキミに捧げられる。ずっと悲しかったんだ……どこの誰かも知らない男を喜ばせていたのではないかと。だが、違った……違ったんだ……」

 頭上から降ってくるドルベの声が何を言っているのか、もう意味を理解しようとするようにナッシュの頭は動かなかった。いつの間にか寝台の上に仰向けにされていた。身体の上に、ドルベが乗っている。彼の身につけた紗がさらさらと肌をくすぐる感覚さえとびきりの愛撫に感じるほど、ナッシュの身体は先を求めていた。

 身体に馬乗りになったドルベが自らの尻を割り開くように手を動かしている。天を向いて張りつめたナッシュの性器に跨がって、ゆっくりと指で押し広げた後穴をあてがう。

「あっ……」

 とろけたドルベの高い声と共に、先端がそこへ触れた。縛られてもいないのに、手足は自由なはずなのに、ナッシュは動くことが出来なかった。否、動かなかったのかもしれない。柔らかでひくひくとうごめく肉に、色艶を持った微笑みまで向けられて……その中に包まれたいと思わない男が、いるだろうか。むしろ安心さえしたのだ。自分はまだそう思えるほど男のままであったのだと。たとえ相手が、敵によって身体を変えられてしまった、親友であり、高潔な騎士であったとしても。

 ずぶり、とドルベの後孔にナッシュの先端が埋め込まれる。ドルベは身体を歓喜に震わし、ナッシュの腹に手をついて、体重をかけていく。

「はぁっ……ナッシュ……」

 銀色の瞳がうっとりと見つめてくれば、ナッシュも息が荒くなった。

 先端だけ埋められたドルベの肉の中は柔らかくナッシュを包み、きゅうと締め付けると奥への挿入を懇願するように動いていく。じわじわと導かれていく感覚に寝台に横になったままでも腰が前後に動いた。ナッシュがせかすのにドルベは腰を思い切り落とす。ずぶ、と性器が擦られ、奥を貫くと同時にドルベの尻がナッシュの身体の上についた。

「ああっ、ああ……ああ……ナッシュ、ナッシュぅ……」

 背を反らしてドルベは高い声で果たされた挿入を喜ぶ。痛みは感じないのだろう。接合部に目を向けて、すっかりナッシュの性器を己が飲み込んだのだと確認すると腹を撫でる。満たされた感覚に包まれているのだろうドルベは目を細めている。ナッシュもまた、性器を包む熱い肉に雄としての高ぶりを感じながらも、同時に……自身の腹の奥の方までもが焦がれるように疼くのを感じた。

 ゆっくりとドルベは腰を揺らしはじめる。快楽を探すように、前後左右に引き抜いたり、ずらしたりして、ナッシュの性器をその身の中で愛撫する。立場上ナッシュは年齢こそ幼いが、性教育のため女を抱く機会はそれなりにあった。だが今まで抱いてきたどの女よりも、ドルベの中は熱く、柔らかく、気持ちが良かった。とろけてしまいそうだった。

「ナッシュ……気持ち、いいかい……?」

 こくりと頷く。ドルベはうれしそうに微笑むと、腰の動きを激しくさせた。

「私も気持ちいい……、うれしいんだ……、キミと、こうして……繋がっていることが、キミと、っあ、キミのを、ココに入れることができて……うれしいんだ……、ナッシュ、私は、きっと、ずっと前から思ってたのかもしれない、キミと、こういうことをしたいと……」

「ドルベ……、つぁああっ?!」

 ドルベの手が不意にナッシュの乳首から延びた鎖を手に取り、引っ張る。ぐいと張りつめた乳首に奔る痛みとそこに混じった甘い快楽に、ナッシュは高い声を上げた。

「やっ、ドルベ、それ、だめだっ、離してくれっ、いやだぁっ!」

「はっ、気持ち、いいんだろう? ナッシュ……こうして引っ張ったら、またキミのものが、中で大きくなった」

 両胸の鎖をまるで手綱を操るように引き、ドルベはナッシュの乳首をもて遊びながら女のように腰を揺らしてナッシュの性器を高みへと導いていく。ドルベの性器も触っていないのにすっかり勃起し、紗を押し上げているのがナッシュからもよく見えた。

「流石英雄と呼ばれるだけはあるなドルベよ。騎乗は得意のようだなあ。お前もそう思うだろう、ナッシュ王」

 玉座に座ったまま様子を見物していたベクターが笑う。だがその言葉に怒りも感じられないほど、ナッシュの頭は快楽に支配されていた。

 ドルベの白い肌は赤く上気し、さらなる艶めかしさをナッシュに感じさせていた。荒い息と、甘美な高い嬌声。桜色の頬。汗のにじんだ額にはりつく銀糸。快楽にとろけきった銀の瞳。ナッシュを咥えながら乱れるドルベの姿はとても魅力的に映った。我慢も屈辱も忘れて、ナッシュも腰を雨後かす。ドルベの奥を求めるように。

「ナッシュ、ああ、気持ちいい、はぁ……っ、そこ……っそこぉ、ナッシュ、そこ、イイっ」

「ドルベっ、も……だめだ、あっ、あぁぁっ!」

 びくんと身体じゅうが心臓になったように跳ねた。びゅるりと先端から出た精液が、ドルベの中で溢れるようだった。愛しそうに締め付けてくるドルベの腸壁に、達したばかりだというのに再び性器が固くなるようだった。ドルベもまた射精をしたようで、ぽたぽたと垂れた白濁が、ナッシュの腹に落ちている。

「は……はぁ……っ」

 どちらのものとも分からない呼吸の音が、響いていた。快楽にとろけた二人の瞳はもう、ここがどこであるか、誰が見ているか、自分たちが何のためにこうしているかさえ認識できていないだろう。

 

 

 

 ずるりと内側から引き抜く際、ドルベの腸壁はナッシュを離したくないとばかりにうごめいていた。そのときのドルベの表情もまた、擦れる刺激を恋しく思うように口元が緩み、透明な涎を垂らしている。だがそれは決して不快なものではなく、美しいとさえナッシュは思った。友のそんな顔を見るのは初めてだった。そして、彼がここまで乱れるような快楽に、ナッシュは興味を隠せなかった。

 射精を果たした性器は一瞬開放感に包まれたが再び熱を持ち始めている。ちぎれてしまうほど引っ張られた乳首もじんじんと疼いて勃起したままだ。そして何よりも……身体の内側が、奥が、疼いている。求めている。散々に拡張され張形で弄ばれたそこは、ドルベに挿入している間ずっと疼いて、挿入されることを望んでいた。挿入される快楽に悶えるドルベの姿が、その欲求を冗長させた。

 寝台の上で余韻に浸っているドルベの元へナッシュが向かったのは、無意識のうちだった。ドルベの萎えかけた性器に顔を寄せる。何のためらいもなく口に含むまでのナッシュの動きは、とても自然だった。

「あっ」

 小さなドルベの悲鳴を無視して、ナッシュはドルベの性器を頬張った。射精をした直後、彼の性器はまだ精液に塗れていた。舐め上げ、先端に残ったものも吸い上げる。そのむせかえるような生々しいにおい。初めてドルベのものを咥えたはずなのに、ナッシュはそれを知っていた。

 においだけではない。この形も、この性器の敏感な場所も、どうすれば勃起するのかも、ナッシュは知っていた。

「ふあ……ああ……、っむ、ん……っ」

 ぴちゃぴちゃと音を立て、ナッシュはドルベの弱い箇所を舐めあげる。ドルベの性器はすぐに固さを取り戻し、ナッシュの口の中で大きくなっていく。

 ドルベが、ナッシュの性器を口に含んだとき、どうしてあのようなことを言ったのか。ナッシュはようやく理解した。

 舌を休ませずに、喉を使って吸い上げる。指も添えて、陰嚢を揉むように愛撫する。

 ベクターに調教されている最中。目隠しをして連れて行かれたあの部屋で、ナッシュが舐めさせられていた男の性器は、ドルベのものだったのだ。そして毎回入れ替わりにナッシュの性器を舐めていたのが、ドルベだったのだ。

 においと形を覚えてしまうほど繰り返された行為。誰とも分からぬその性器に、口に、嫌悪を覚えなかったことはない。だがその最中にドルベのことをナッシュはいつも思い描いていた。……それが、間違いではなかったのだ。

 決して外されることはなかった目隠しや、口淫の際以外声を封じられていたのは全て、それがお互いだと分からぬようにしていたことだったのだと理解する。

 ベクターの悪趣味な仕掛けを、快楽に支配されたナッシュの脳はむしろ喜ばしいことだと受け取ってしまう。己が奉仕していたのは最愛の友だった。己の口を汚していた精液は最愛の友のものだった。誰とも分からぬ者の性器を舐め、舐められるよりもずっと、友の快楽の助けになっていたとしたらそれはなんて幸福なことだろうか。

 夢中でナッシュはドルベの性器を舐めた。今まで繰り返したどの口淫よりも入念に、愛を込めて。そうすればドルベが喜ばないはずがない。唾液にまみれてようやく口内から出されたドルベの性器は、すっかり勃起していた。

「ナッシュ……」

「どうだ、ドルベ、気持ち、良かっただろ?」

 既に身体に纏っていた紗はかろうじてひっかかっているだけだということに、ナッシュは気づかない。上目遣いで微笑むと、ドルベも優しく微笑みかえし、労るように髪を梳いてくれた。くすぐったくて気持ちがいい。

「お前に、頼みがあるんだ……」

 ドルベの手を引いて、ナッシュは再び寝台に横になる。手が勝手に乳首に通された輪と、そこにつけられた鎖を弄ぶ。ドルベはそれを見ると先ほどと同じように引っ張ってくれた。甲高い歓喜の声があがる。

「ドルベ……さっきのお前、とても気持ちよさそうだった……。俺も気持ちよかった、けど、まだ、足りない」

 足を開いて持ち上げる。尻をドルベに向けて、後孔を指で広げながら見せつける。ひくひくと疼いて、今か今かと挿入を待ち望んでいる。

「俺、まだ、入れられたことないんだ……俺も、はじめてなんだ……はじめては、ドルベがいい。ドルベともっと繋がりたい。ドルベのが欲しい。もう、待ちきれない。……ドルベの、俺に、ちょうだい。ドルベ、頼む……ドルベ……」

 ごくりとドルベの喉が動いたのが見えた。ドルベは騎士がするように恭しく頭を下げ、ナッシュのつま先に口づけを落とす。

「キミにそんなことを言われたら……断れるわけがないだろう、ナッシュ」

 そうしてナッシュの唾液で濡れたドルベの性器がひくひくと蠢く後孔へとあてがわれる。その熱は、決して今まで使われた道具にはなかったもの。人の性器のあたる初めての感覚。待ちわびたそれにナッシュは身体の芯から喜びの震えを奔らせた。

「あああぁぁぁぁぁっ!」

 ドルベの先端が挿入されただけで、ナッシュは果ててしまいそうな快楽を得る。もっと奥へ、奥へ早く刺激が欲しい。ドルベのもので貫いて欲しい、そう願ってドルベの首に手を回し引き寄せるように抱く。

「っあ、ナッシュ、熱い……すごい、キミの中は……とろけそうだ」

「お前のっ、なかも、そうだった、っあっ!」

 思い切り腰を押しつけられ、ドルベの性器が根本まで内側に入る。腹を満たす圧迫感は苦痛ではない。とびきりの快楽。きゅうきゅうと締め付けて、律動を促す。ナッシュのほうも、ドルベの股間をこするように腰を動かす。

「ナッシュ……っ、ナッシュ……っ」

 女を抱くときにそうしているのだろう、ドルベはナッシュの頬や額に幾度となく唇を音を立てながら落としていく。火照った頬に触れた粘膜からさらに熱が伝染するようだった。

「ドルベ、そこっ……そこ、気持ちいい、気持ちいいっ……! もっと、もっとぉ、あっ、ああっ」

「ここ、かい? ここがいいのかい?」

「そう、そこっ、そこ、好きぃ……!」

 内側の一点をぐりぐりと性器でつかれて、ナッシュは女のように喘ぎ懇願した。

「そこっ、好きっ……ドルベは?」

「私も……気持ちいい……っ、いい、ナッシュ、キミの中、本当にたまらない……キミと繋がって……どちらもこんなに、気持ちいいなんて」

「俺も……っ、そうだ……そうだったんだ、俺もったぶん、ずっと、ドルベとしたかったんだ……ドルベ、お前が、こんなにも愛しい……好き……ドルベの、気持ちいい、好きっ」

「私も、好きだ、愛してる、ナッシュ、ナッシュ……っ!」

 ずんずんと本能のまま突かれればギシギシと寝台が音を立てる。だがもうナッシュには愛しいドルベの声しか耳に入らない。ドルベのもたらしてくれる熱と快楽だけが世界の全てだ。

「ドルベ、本当に、よかったっ、お前と繋がれて……俺の身体は、きっと、そうするために、生まれてきたんだ……ドルベ、ドルベっ」

 ぎゅうと抱きしめれば更に深く挿入される。目の前にドルベの顔があった。銀色の瞳に涙が幕を張り、艶めいてきれいだった。うっとりと口づけを交わす。自然と舌を入れ、互いが愛撫しあい、唾液が混じり合う。運命の恋人に出会ったかのような高揚感が身体の芯の熱を炎で更に包み、きゅうととろけた後孔は愛しい人を抱くように締めつけを強める。ドルベの性器が内側で震え、射精を果たす。

「ああっ――――!」

 降りかかる未知の感覚さえも、愛しくてたまらず、ナッシュの身体を内側から快楽で染め上げていった。

 

 

 

 大きな寝台の上に寝そべる二人の少年を、ベクターは唇に弧を描きながら見下ろしていた。幾度となく性交と射精を繰り返し、快楽に溺れた二人の目は焦点があわず、ただ本能だけでやわらかく抱き合い、小鳥のさえずるような愛撫を互いに繰り返している。紗はもうすっかり肌からこぼれ落ち、白くなめらかな女と見間違うばかりの肌の上で、赤く染まった乳首とあちらこちらに飛び散った白濁色の精液が艶めかしい。囁かれる声は甘く高く、彼らが一国の偉大な王であったり、海を越えその名の知られた英雄だったりするなど、最早誰も思うまい。

 友を思うが故にベクターに屈したドルベとナッシュは、今、ベクターの前でその友情を失わされたのだ。代わりに与えられたのは、歪んだ性欲。たとえ二人が快楽から抜け出すことができたとしても、もう元通りの友情は築くことが出来ないだろう。互いの気持ちを裏切り、しかしそれに気づくこともなく性に溺れた哀れな少年たちを見てベクターは機嫌を良くした。

「さあ、約束通り、お前たちを国に返してやろう」

 その声が本能のまま愛し合う二人に届いてはいないだろうと知りながら、ベクターはくつくつと笑った。

 

2013.07.13

「実はお互いのフェラしあっていた」というシチュエーションがまず思いついてこのよからぬシリーズ前世編が出来ました。正直、最初にドルベ、ベクター、シャークさんで乱交(してないけど)書いたとき「この組み合わせは我ながらないわ…特にシャークさんが」と思っていたんですがまさか前世(仮)で3人ピンポイントで絡んでてびびりました。妄想が捗るしかない。

Text by hitotonoya.2013
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