邪道皇ベクターのよからぬお戯れ〜国王編〜

 

 鎧を奪われ、ベクターの前に突き出されたナッシュは腰布を纏うだけの無防備な格好をさせられている。兵士に両腕を押さえられて身動きがとれずナッシュは歯を軋らせる。

「そう厳しい顔をするな。ナッシュ王」

 余裕たっぷりの口調でナッシュを見下ろす紫の視線は狂王、ベクター。その残忍かつ非道な性質と圧倒的な戦争の手腕は海を越えナッシュの国にも響いている。

「貴様を目の前にして……穏やかな顔を俺ができるとでも思っているのかっ!」

 怒りを露わにナッシュは叫ぶ。両腕を押さえつける兵士に力を込められ痛みが奔るがそんなことは関係なかった。ベクターはナッシュから最愛の妹を奪ったに等しいのだ。そして……ナッシュが気を許す、もうひとりの大切な存在、かけがえのない友であるドルベ。天馬の騎士であり、大陸で英雄と称される彼までも、矢に撃たれ落とされ、ベクターに捕らえられてしまったのである。

 己の無力に打ちひしがれるナッシュに、ベクターが出した提案は、「ナッシュ王がひとりでこちらに来て交渉すればドルベとその愛馬ペガサスの身の安全は保証し、引き渡す」ということであった。誰もが罠だと警戒し、王を引き留めようとした。だがナッシュは制止を振り払い、単身ベクターの元へ乗り込んだのだ。

 そうして案の定、待ち受けていた数の暴力に、抵抗かなわずナッシュはその身を拘束されてしまったのだ。

 もちろん想定していなかったわけではない。ベクターの出した案を全て信じるわけではないが、その間国には一切手を出さないと聞いている。施政も、万が一の際の軍事も、信頼のおける家臣に任せてきた。もとよりナッシュは独裁者ではなく、巫女である妹をはじめ、大臣や、将軍たち……国民に支えられて王としてのつとめを果たしてきた。自分がいなくとも国は回るだろう。そう考えていた。

「ドルベはっ!」

「あの英雄様ならこちらで丁重に保護させてもらっているぜ。武器や装備は奪わせてもらったが……生きているぞ。天馬もまた、な」

「だったら会わせろ、今すぐ」

「そうはいかんな。こちらから出す条件を飲んでもらわなければ」

 濁った目で見下ろすベクターの言葉にナッシュは眉を顰めた。

「俺の命か。それとも国か」

「ハッ、そのどちらかだとしたらわざわざお前をここに呼び出すまでもなく、自力で奪っている」

 ベクターは玉座の上にあぐらをかき、立てた膝の上に腕を乗せた。

「……ちょっとした余興につき合え。しばらくお前は我の言うことに大人しく従っているだけでいい。そうすれば、お前も、あの天馬の騎士も生きたまま国に返してやろう。悪くない条件だろう?」

「……何を考えていやがる」

「だが、ナッシュ王。お前が逆らえば、我はすぐにでも、お前の大切な友の首を掻き斬ることが出来る。それだけは覚えておけ?」

 ナッシュに選択権は渡されていなかった。ベクターは既に彼の考えた余興を始めている。ドルベはおそらく生きているだろう。死んでいれば、ベクターはその死体を晒してみせるだろう。そう考えてナッシュはひとまず安堵する。だが次の瞬間、押さえつけられていた身体は急に宙に浮いた。

「っ!」

 兵士たちがナッシュの身体を持ち上げたのだ。軽々とその身体はベクターの座る玉座に運ばれる。今度は正面から見据えることになったベクターの顔は狂気に歪んでいた。

「ほう……近くで見れば、評判よりも美しい顔をしているではないか、ナッシュ王」

 玉座に腰を下ろしたまま、ベクターはナッシュの身体をひょいと抱え上げると値踏みするように紫色の目で見下ろした。そうしてその手がゆっくりと肌の上を這っていく。

「なっ……」

 男に……しかも己の国を侵略し、最愛の妹の命さえ奪ったも同然の人物にいやらしく撫でられて、良い気分がするわけがない。ナッシュはベクターを睨みつけるが、しかし狂王は唇の端をつり上げる。

「逆らったらお前の大切なオトモダチがどうなるか……教えてやったよなあ?」

 先ほど告げられたことを思い出せば、ナッシュは黙るしかない。

 この狂った王の言うことを信じるなんて愚かだと思う。だがナッシュが軽率な行動をとったことで万が一友の身に何かあったとしたら……。これ以上大切なものを己のせいで失わせるわけにはいけない。その恐怖がナッシュをベクターの支配下に置く。

 ぎりりと歯を軋らせ屈辱に耐えながら、ナッシュはベクターの指が己の身体の上から離れるのを待ち続けた。だがベクターは表情を変えぬまま、ナッシュの身体を隅々まで確かめるように触れていく。耳の裏や、髪に隠れたうなじ、腋や膝裏までも。

「流石は王族といったところか。肌のハリやツヤは良いな。今まで抱いたどの女よりも滑らかだぞ」

 嬉しくない誉め言葉に舌打ちをする前に、ナッシュの身体を新たな刺激が襲う。

「っう……」

 指が胸の先端……乳首をくりくりと押しつぶせば、ナッシュは肩を揺らし食いしばった歯の隙間から息を漏らした。気持ち悪いというよりくすぐったさを感じたのだ。ベクターはナッシュのその反応を見逃さなかった。

「ほう、コイツは乳首が感じやすいようだ。重点的に開発しろ」

「はっ」

 控えていた従者が声を上げベクターの命を聞く。どういう意味の命令か分からずナッシュが困惑していると、ベクターの手が下半身を隠してくれていた布に伸び、するりと解くように脱がせてしまう。

「なっ、てめぇ、どこ触ってっ!」

 尻の形を確かめるように両手で揉みしだかれる。ベクターの指が尻の割れ目にするりと入り込み、窄まった入り口をぐるりと円を描くように撫でる。ぞくりと背筋が泡立ち、ナッシュは悪寒に震えた。

「性教育が十分に施されてないんじゃないか? 国王様」

 くつくつと喉を鳴らしてベクターが笑うのに、ナッシュはようやくベクターがこれから自分に対して行おうとしていることに見当をつけることが出来た。……陵辱。支配者としての、男性としての尊厳を貶められる屈辱を、ナッシュに味わわせようとしている。

「……安いものだろう、国王。お前がちいと我慢をして、我の暇つぶしに付き合ってさえくれれば……あのペガサスの英雄も、お前も命を奪われることなく国に帰還できるのだからな」

 身体を撫でながら囁かれれば、ナッシュは怒りを押し込めることしか出来なかった。

 肩を戦慄かせるだけで、しかしベクターに危害を加えずにいるナッシュにベクターは「いい子だ」と笑う。そうしてナッシュの身体の全てを検分しおえると乱暴に己の膝の上から落とした。

「がっ……!」

「もう良いぞ。こいつの身体はだいたい分かった。部屋に連れて行き早速始めろ」

 ベクターは玉座から立ち上がると部下に指示を出し、広間から立ち去ってしまう。ナッシュが部下たちに取り押さえられ、床に頭を押しつけられながらもその姿を睨むが、濁った紫の瞳は小動物を相手にする肉食獣のように、その視線に恐怖を微塵も感じていなかった。

 全裸のままナッシュが連れて行かれた部屋はまるで後宮の一室のような部屋であった。広い部屋に大きな寝台が用意され、甘い香が焚かれている。捕虜に与えられる部屋にしては豪華すぎ、そして他国の王を招く部屋だとすればそれはあまりにも女を強く意識させる。蝋燭の炎で薄明るい部屋はいっそ不気味ささえ感じられ、ナッシュは息を飲んだ。

 部屋を見回し終わる前に、ベクターの部下の男にナッシュは突き飛ばされる。両腕を拘束されたままであったためバランスがとれず、上半身から勢いよく寝台の上に倒れ込む。とびきり上質の布や綿が使われている寝台が包み込むように受け止めてくれたのが逆に腹立たしく、悔しい。

 体勢を立て直せないでいる間に複数人に身体を押さえられる。仰向けになるよう身体をひっくり返されると、両手首の拘束が解かれたと思った次の瞬間には組み替えられ、頭の上で再び纏め上げられる。手錠から延びた鎖で寝台へと固定される。脚も大きく開かされると膝をつり上げるように壁と寝台から延びた鎖につながれる。恥部を大きく晒す屈辱に、矜持の高いナッシュがそれでも声を荒げることがなかったのは……ベクターの出した交換条件のためだ。

 今はもうナッシュの統べる王国と関係ないはずのドルベまでが、愛馬と共に加勢してくれたためにベクター軍に囚われてしまった。親友を逃がしてやることさえ出来なかった己の無力にナッシュはいくら悔やんでも悔やみきれない。

 ここで自分さえ屈辱に耐えれば、ドルベは解放される。何も守ることが出来なかったナッシュだが、せめて友の身の安全だけでも願うくらいは許されるだろう。ベクターの機嫌を損ねれば、凶刃の向かう先はおそらくナッシュではなくドルベだ。狂気の王とまで言われるベクターとは、そういう男なのだ。

 だが魂まで屈服してなるものかと、ナッシュは自分を見下ろす男たちを厳しく睨みつける。研ぎ澄まされた刃の如き眼光は、先日まで海域の連合国を統べていた支配者のものであるが、ベクターの元で訓練された部下たちは動揺を見せず、無表情のままナッシュの身体に手を伸ばしていった。

 

 

 

 寝台の天蓋を見つめながら、ぼんやりと曖昧な意識の中ナッシュは己の呼吸の荒い音を聞いていた。この部屋に入れられて日々を過ごすようになってどれだけの時間が経ったのか、考えられるほど頭が働かない。

 それほどまでにナッシュの身に浴びせかけられた調教という名の性的快楽責めは激しかった。だがそこにナッシュの意志は反映されない。無理矢理に身体中を、内側までをもまさぐられ、射精の快感を覚えさせられる。

 今もナッシュははじめてこの部屋に入れられたときと同じように、身体の自由を奪われた状態で脚を開かされ、秘所を晒す格好をとらされている。後孔には金属で出来た器具が取り付けられ、はじめは指一本すら受け入れることも困難だったそこはぱっくりと開かされ内側が見えるほどに拡張されている最中だ。直腸に外気が触れる切なさに、ナッシュは内股を震わせていた。

 救いは、そこに男根を直接挿入されることがなかったことだ。指や道具の挿入はあれど、男に組み敷かれ女のように扱われることはなく、ナッシュはまだ矜持を保つことができていた。ただの性欲処理に使うならば、宦官のように男としての機能を失わせてしまえばいいものの、ベクターはそうすることもなかった。これは、趣味の悪い暴力による拷問。そう解釈できればまだ楽だ。

 だが扉が開き、そこに入ってきたベクターの部下たちが四肢の拘束を解き始めるとナッシュは眉間に皺を寄せた。後ろ孔を広げていた器具が取り外され、入れ替わりに蓋をするように張形を押し込められる。腸壁を抉るように乱暴に押し込められたそれにナッシュが声をあげるまもなく、じゃらりと鎖が重い音を立てる。立て、と言われるまでもなく、ナッシュは重い身体を自ら起こした。

 寝台に繋がれた鎖が外されるのは、こうして別室に連れて行かれるときだけだとナッシュは長い生活の中で理解していた。それでも目隠しをされ視界を奪われて、両腕は後ろ手に縛られていては自由などどこにもない。

 ベクターの部下たちに支えてもらわなければろくに歩けなくなった身体は筋肉が落とされている。ふらつく自分の足取りにナッシュは歯噛みする。後宮に入れられる女のように、ただ美しくあるようにとばかりに香油を全身に塗り込められて、食事も制限されている。扱いは捕虜なのだから、肉などほとんど出されないのは当然だろう。だが食事の内容が甘い果物ばかりで、まるで身体の内側から体臭から全て変えられているようで、ナッシュは恐ろしかった。己が己でなくなっていくような、そんな恐怖に包まれたまま、たどり着くのはどこにあるかもわからない部屋の中だ。

 この蒸し暑い部屋で繰り広げられる行為はいつも同じだ。まず椅子の上に座らされ、猿轡で声を奪われる。そうしてしばらくすると大きく開かされた股の間に誰かが入ってきて、ナッシュの性器に口淫を施していくのだ。

「……っん」

 ナッシュの性器を咥える男ははじめのうちこそただ荒っぽく吸ったり舐めたりするだけだったが(それでもナッシュは射精を繰り返してしまっていた)、回数を重ねるうちにナッシュの感じる場所、感じる方法を覚えたのか、今は巧みに性器に快楽を伝え、勃起を促す。

 口淫と同時に、背中から回された別人の手がナッシュの乳首をこねる。

「んっ、んうっ、ん……」

押しつぶし、捻り、繰り返し、すっかり乳首が固く勃ちあがった頃、男の口の中でナッシュはびゅると精を吐き出す。性器を包む粘膜が動き、相手が精液を飲み干したのが分かる。そのあたたかな口内を、気持ちいいと……抜かれてしまうのが惜しいと感じてしまうほど、ナッシュは既に性に狂わされていた。

 ナッシュのそんな願望を無視して口は離れていく。唾液で濡れそぼった性器が外気に触れる感覚にすら性的な快楽を見いだしてしまいそうだった。

 座らされていた椅子から引きはがされれば床に膝を付かされる。今度はナッシュが男を悦ばせる番だ。猿轡が外されるのと入れ替わりにナッシュの口の中に既に勃起した男性器が押し込まれる。

「ふっ……んぐっ……」

 もうこの大きさにも臭いにも慣れてしまった。先ほどまでナッシュの性器を咥えていた男と同じように、ナッシュ自身も回数を重ねるうちに相手の感じる場所、感じる方法を覚えてしまっているのだ。どう舌を使えばいいのか。どう吸い上げればいいのか。口内、喉、全てを使った愛撫の方法を、ナッシュはその身に叩き込まれた。

 後ろから乳首をまさぐる手は止まらない。乳首を引っ張られ、口淫の邪魔をされる。漏れ出しそうになる声を堪えながら、この責めから早く逃げ出すためにも、一刻も早く口内の性器を射精させようと、ナッシュは懸命に舌を動かす。吐き出された精液を吐き出すことは許されない。そんなことをすれば機嫌を損ねたベクターが、友に……ドルベに何をするか分からない。

(ドルベ……)

 友を思いながら顔も分からぬ男の精液を飲み干すことは、ナッシュに罪を感じさせた。

 

 

 

 その日はいくつもの玉が連なったような道具を、ナッシュは寝台に仰向けにされたまま見せられた。それが今日、自分の身体の中に入れられるものなのだとどこか諦めに似た気持ちと共に理解する。すっかり柔らかくなり、緩んだ後孔は、慣らされもしていないのに先端の小さな玉でつつかれただけでいやらしく蠢き、内側へと導こうとする。軽く力を込められればつぷりと玉はまずひとつ、ナッシュの中に入った。

「っあ……」

 自分のものだとは信じたくない甘い声はいつ聞いても気持ちが悪い。けれど、身体は、気持ちがいいのだと受け止めている証拠。

「あっ、あーっ、はっ……、やあっ……!」

 ごりごりと内側を抉りながら押し進められていく道具。ごつん、と玉の先端が腸壁に当たる。何個分飲み込んだのか、数えたくもない。ふいに、胸に奔った痺れにナッシュは身体を跳ねさせた。

「んあっ!」

 頭の方からのばされた手が、ナッシュの両乳首を引っ張り上げたのだ。これまでの調教で散々弄くられた乳首は真っ赤に熟れ、今では性器や後孔への刺激に連動して、じんじんと疼くようになっていた。ベクターに囚われるまで、普段の生活で気にとめることさえなかった己の身体の部位が、イヤでも意識してしまう、せざるをえなくなってしまうものに変貌を遂げている。

 後孔に挿入された道具を抜き差しされる。ずるずると球のひとつが抜かれる度に、背筋をぞくぞくと奔る快感。ギリギリまで引き抜いてから……また勢いよく最奥まで挿入される。球面が腸壁をこすり上げる。その繰り返しにナッシュは身体を跳ねさせ喘いだ。

「やぁっ、あっ、これっ、おかし……っ、やだっ、やっ、やあっ!」

 声を堪えることも忘れてしまうほどの刺激に、性器は触れられてもいないのに勃起し、天を向く。

「嫌だ? ハハッ、なにを言っている。そんな顔を見せておいて、説得力のかけらもないぞ、ナッシュ王」

 水音が響く中、割り込むように降ってきた声にナッシュは聞き覚えがあった。その方に顔を動かせば、柱に寄りかかり尊大に腕を組んでナッシュの痴態を見下ろす、濁った紫の瞳があった。

「ベクター……っ!」

 その狂王の姿をナッシュが見るのは、最初の謁見の間以来であった。

「こちらの調教は順調のようだな。薬を一度も使わずにここまで育つとは、元々淫乱の才能があったようだ」

「なにを……っ!」

 身体を舐めるように見るベクターの視線に、ぞくりと奔ったのは悪寒であるとナッシュは信じたかった。

 真っ赤に熟れた乳首をベクターは目に留めると、にやりと唇を歪める。

「ここまで耐え抜き生き続けたお前に褒美をとらせよう」

 ベクターの側に控えていた侍女が恭しく盆を上げる。その上には小さな二つの金細工が乗っていた。

「ピアス……?」

 ベクターが取り上げたのは美しい金細工の円環。蝋燭の炎にも煌めきを放つそれには細かな彫刻も施され、かなりの価値があるものだと分かる。

「そうだ」

 ナッシュにそれを見せつけながら、ベクターは顎で部下に指示をする。乳首を弄くっていた男の手が離れたかと思うと、次の瞬間ナッシュの目に映ったのは、鋭く、太い銀色の針だった。二人の部下が、一本ずつ持つとナッシュの両脇に回り込む。蝋燭の火であぶられ、熱を持ったそれがつきつけられたのは、ぷっくりと勃ちあっがった両の乳首にだった。

「えっ、あっ、なにをっ」

「察しが悪いな、ナッシュ王。よくそれで王が務まったものだ」

 乳首にあたる焼けるような熱。暴れぬようにナッシュの四肢は押さえつけられる。

「まさか、そんな」

 察しなんて本当はついていた。ただそれをナッシュは認めたくなかっただけなのだ。

 口の中に布を押し込まれる。痛みに舌をかまないようにだろう。これから身に降りかかる激痛を想像し、ナッシュは青ざめる。

「やれ」

 なんでもない風にベクターが短く言うと、敏感になった胸の先端から、鋭い痛みが迸った。

「!!!!!!」

 目を見開く。貫かれた乳首から、赤い血が溢れていく。息が詰まる。苦しい。痛い。見下ろしてくるベクターの目はナッシュの苦痛を理解しているだろうに、ただただ笑っていた。涙が眦から溢れかけたとき、誰かの手がナッシュの性器を扱きだした。

「んっ、んんっ」

 痛みに萎えかけていた性器を無理矢理扱かれる。後孔に入れられたままだった道具も抜き差しを再開される。

「っふあ、ああっ……いあっ……あっ……!」

 布を口から取り上げられれば、漏れるのは切なく甘い声。堪えられなくなった涙をぽろぽろとこぼしながら、ナッシュは鳴く。下腹部にこみ上げる熱。痺れ。そして、男の手の中でナッシュは射精させられる。

「あああっ……!」

 射精の快楽を味わわされてしまえば、胸に奔るひりひりとした痛みさえも、溶かされきった脳は気持ちがいいものだと解釈していく。

 ベクターは部下にピアスを手渡すと、血がにじんだままの、作りたての穴に通させた。ベクターはずっと腕を組んだまま。ナッシュを見下ろし、その白い肌の上で赤く色づく乳首、そこに通された金属が煌めく色艶に満足したようにぺろりと舌を出して唇を舐める。

「よく似合っているぜ、国王様」

 そうしてベクターは高笑いと共に立ち去っていく。

 こんな場所に孔を穿たれて、いよいよ自分の身体は二度と元に戻れないのではないか。その恐怖と絶望に、ナッシュは怒りも悔しさも忘れてただ涙を流した。

 蝋燭の炎に揺れ、胸の先端で輝く腹立たしいほど美しい金細工を睨みながら、ナッシュは眠れぬ一夜を過ごした。

 

2013.07.06

英雄編との既視感と書き分けできてない感をお楽しみください(苦笑)。いい加減ナッシュ(仮名)がつらいので国王様の本名と本当の性格明らかになってほしいです。よからぬシリーズ前世編はあともう1話続く予定です。

Text by hitotonoya.2013
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