コイクル ―恋狂―

 あいつの声が聞こえる。忘れもしないこの響き、息づかい、イントネーション。ハンドルを握る手のひらに汗が滲む。どくどくと心臓と繋がった全身の血管が脈打つのが分かる。乾いていた身体に水が注がれたような感覚。ぞくりと粟立つ背筋。けれど唇は乾いて、ぺろりと舌で舐めあげる。

「見つけた……」

 呟いて、アクセルを踏み込む。タイヤの回転が地面を抉りとる。勢いをつけて飛び上がる。この壁の向こう側にいるあいつを求めて。

 

 

 

 叫ぶように名前を呼んだ。ヘルメットを投げ捨てて、何も言わずにこちらを見ているだけのIVにまっすぐに視線を定める。後ろが何やら騒がしいが、そんなこと無視するしかできないほどに俺の全神経はIVに向いていた。ようやく見つけた。ようやく会えた。感動、に近いだろうか。この気持ちは。もう我慢など一秒たりともできない。

 つかつかと歩み寄りにやけ顔を張り付けたままのIVに蹴りを入れる。あっけないほど簡単にバランスを崩し土埃をあげながら地面に倒れ込んだIVの身体の上に馬乗りになる。乱れた前髪で顔がよく見えない。金髪をつかんで払ってやるとそこには倒れる前と何ら変わらぬぎらついた赤い瞳があった。それを見下ろしてやるのが至極気持ちがよかった。

 腰のデッキケースから取り出した、一枚のカードは聖なるバリア―ミラーフォース。一年ぶりに再会したIVが投げつけてきたカード。見せつけるようにIVの眼前にかざした後、すっとナイフのように首筋につきつける。IVは全く抵抗せず純白の服が汚れるのも構わず仰向けに横たわったままこちらを見上げている。その瞳に映るのは間違いなく俺の姿。他の誰も映しちゃいない。

「ずいぶんと過激なファンだ」

 笑いを堪えるような声。

「そんなに俺のことが好きなのか?」

 問いかけに、目を瞑る。

 相手は俺のすべてを奪った男。憎くて憎くて復讐したくてたまらない男。好きだなんて感情とは真逆にいる男、のはずなのに。

 なぜだろう嬉しくてたまらない。IVをこうして捕らえていることが。IVを見つめていることが。IVに触れていることが。

 IVを見つけられなかった間を思い出す。求めていた。探していた。ほんの短い間のはずなのに、その飢えは永遠にも等しい時間に感じられて――苦しかった。切なかった。だのに今のこの高揚感といったら!

 カードを持たぬ左手で、ぎゅっと自分の胸を掴む。ゆっくりと口を開く。

「ああ俺はお前のことが大好きだよ」

 お前のことを考えて、夜も眠れないほどに大好きだ。

 ――このままこのカードで首を掻き切ってやりたいほどに。

 これがきっと、恋なのだ。

 はやる鼓動、笑みの形に歪む唇。見開いた瞳にうつるIVの瞳の中の自分は組み敷いた男と同じ表情をしていた。

 

2011.11.30

攻←受が大好きでね!「やまい」と被ってますが、IVさんのことしか見えないくらい狂っちゃってるシャークさんおいしいです。

Text by hitotonoya.2011
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