君が見えない

 

「シャークっ!」

 敗者に踵を返し去り往く凌牙を遊馬が呼び止めたのは他でもない、彼がハートピースを手に決闘をしていたからだ。

 遊馬がハートピースを手に入れた日、凌牙は遊馬に言ったはずではないか。WDCには出ないと。俺なりに決闘に向き合っていくと。

「……遊馬」

 振り返った凌牙の表情は、あの日の穏やかな笑顔とはうってかわって険しいものだった。その変貌に、遊馬は息を呑む。もう二度と凌牙はこんな表情をすることはないと思っていたのに。彼の決闘が余裕のないものだったのも気になった。まるで遊馬と最初に戦ったときのようだった。諦観と絶望。そのいろを写した瞳。そしてもうひとつ。憎しみ、のようないろが今の彼の瞳には揺れていた。

「シャーク、どうして大会に」
「気が変わっただけだ」

 そっけない返事。遊馬を優しく見守ってくれた表情のかけらのひとつもない。遊馬を見ているようで見ていない。遊馬の知らない別の誰かを見ている。

「……ハートピースは? 申し込み、してたのか?」
「テメェには関係ねぇだろ」

 声が冷たい気がした。遊馬は胸がぎゅうと締め付けられる思いだった。

 どうして関係ないんだよ。シャークと俺は、友達だろ? タッグデュエルだってしたじゃないか。シャークだって、俺のこと仲間だって思ってくれたんじゃないのか。

 感情が高ぶる。遊馬はぎゅっと皇の鍵を握り締める。凌牙が文字通り魂をかけて守ろうとしてくれたもの。我慢できず、遊馬は声を荒げていた。

「シャーク、どうしちまったんだよ!? 一体なにがあったんだ?!」
「――ッ」

 悲痛な叫びに、凌牙の目が一瞬すぼまる。つらそうな、いまにも壊れてしまいそうなほどに揺らぐ瞳。遊馬はそのわけを訊きたかった。凌牙を救わなければならないと思った。だって彼は、救いを求めているような目を――。

 しかし凌牙は瞬きを一度だけすると、その後にはすぐ、表情をかたいものに変えてしまう。遊馬を睨み、誰も寄せ付けない雰囲気を纏いながら言い放つ。

「何度も言わせんじゃねぇ。テメェには関係ねぇ。――もう俺に関わるな」

 いつか聞いたものと同じ台詞。そして凌牙はハートピースを手に人の波へと消えていく。

 遊馬が手を伸ばしても、その背中にとどかなかった。

「どうしよう。シャークがまた、わからなくなっちまった……」

 泣くように遊馬は呟く。その脳裏には凌牙のあの日の微笑みが焼きついていた。

 

2011.10.10

26話見ての妄想。シャークさん復讐にかられてしまうんじゃないかとちょっと心配ですが悪堕ちするなら大歓迎です!(酷

Text by hitotonoya.2011
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