モア・ディープ

 

 寝るときは十分に寛ぎたいという理由で風馬の家のベッドはセミダブルだった。かかっているシーツは薄い水色だったのだろうが、白に近い色になっている。もうどれだけこの布に汗を染み込ませただろうか。ジャックは仰向けに横たわりながら、顔を少しだけ横にそらしてシーツを見ていた。しろいからだは熱を帯び、一糸も纏っていない。セミダブルといえども大柄なジャックが寝れば、大の大人(というと風馬はまだジャックは子供だよと笑った。もうすぐにも20になるというのにジャックは少し悔しくなった)二人を乗せるには狭く感じられた。横に開かれ、折り曲げられた脚の間にシャツをだらしなくはだけた風馬がいる。風馬の顔を見ていられなくて、ジャックはベッドの脇の白い壁を見ているのだ。

 身体の芯を走り抜けるぴりりとした電流にきゅっとシーツを握りしめる。うすくひらいた唇から声にならない声が漏れる。風馬の指が内側を優しく撫でていく。ぐちぐちと聞こえる水音さえもまるで鼓膜を愛撫しているようだった。くんと指の腹で感じる場所を押し上げられる。あっ、あっ、と喘ぐ身体が跳ねる。反射的に顔が動き、正面を――風馬の顔を捕らえる。少し汗ばんで紅潮した肌に青い前髪が張り付き、鳶色の瞳に普段の清廉潔癖さからは想像もできない欲のいろが悪戯ぽくにじんでいる。ジャックの荒い息遣いに、それをきいていた風馬の目がうっそりと細まる。ジャックの内側に入っていないほうの手で、脚を少し持ち上げる。太股の内側に、吸い付くようにキスをされる。つま先がぴんと伸びて、ジャックはだらしない声をあげた。吸い終わって、きっとあかく跡がのこっただろうそこを見て、風馬はジャックに視線を絡めた。太股に吸い付いたばかりの、ぬれた唇が微笑んでやさしく甘く、そして情欲をともなってジャックと名前を紡ぐ。その堪らない感覚に、ジャックのからだを快楽の波が襲う。

 ああ、なんて、おまえは、こんなにも。ジャックもまた風馬に欲情したのだ。そして堪えがたい衝動が内側から込み上げる。頭の中まで電流が走り抜けたような感覚。瞬きもできないのに瞬きを繰り返すような感覚。びくびくと身体が痙攣する。高い声があがる。性器を直接触れられてもいないのに、彼の性器を挿入されてもいないのに、射精すらしていないのに、ジャックは風馬のその表情で達した。彼の手練にいかされたわけではなく、ジャックが欲情していったのだ。不思議と周知は感じなかった。ただただ心地好い熱を帯びた快楽がジャックのなかで渦をまいてぬるま湯につかっているように気持ちがよかった。ぼんやりと天井を見つめたジャックに風馬が驚いたように目を瞬かせたが、すぐに何が起こったのかを察したようで、嬉しそうに笑うと身を乗り出してきて頬に口づけを落とした。そのときに内側にはいりっぱなしだった指がやはり感じるところを刺激して、ジャックは似合わぬ甲高い声を出してしまう。ようやく羞恥の感情を思い出したジャックは目の前の風馬を見つめることなぞ当然できず、「はやくしろ」とぶっきらぼうに急かすことしかできなかった。このままでは、何度いってしまうかわからないと、自分の身体とこころをうらんだ。

2010.11.19

11…トランプのJ=ジャック、19…イク、ということで(酷)風ジャえろ。能動的に達するというところにえろさを感じさせてみたかったです。

Text by hitotonoya.2010
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