健気な娘に恋をした王子様。
悪しき運命に囚われてしまった娘を救うため、命さえ投げ出して戦った王子様。
しかし神様は残酷でした。
ようやく娘を救い出し、思いを告げようとした王子様。
しかし娘は、王子様と交わした思いを、すべてわすれてしまっていたのでした。
ジャックが真っ先に駆け寄ったのは、長い黒髪の女の元だった。ジャックの決闘を見ることのなかった遊星は、それがダークシグナーの一人であったことさえ知らなかった。――以前ダークシグナーに操られた者との決闘のときにいた女。ジャックがなぜ彼女の元へと真っ先に走ったのかさえ分からない。
「そういえばジャック、好きな女がどうのこうのって言ってたよな」
らしくなかったけど、もしかしてあいつか? とクロウが笑う。今まで見たこともないようなジャックの態度を目の当たりにすれば、遊星もそれには納得がいった。ジャックが女――確か名前はカーリーと云った――を抱き起こす。揺さぶられた女は目を覚まし、なにやら小さな声をあげる。二言、三言。
そのとき、ジャックの瞳が見開かれ、顔色がさあと失われていくのを、遊星は見た。
「……これは罰なのだと思う」
ジャックは泣きそうな顔で、しかし決して涙を流さずに喉から絞り出したような声で言う。恋とか愛とかは未だ遊星にはよく分からない。アキとの関係をマーサに誤解されはしたが、ずっと女っ気のないサテライトで過ごしてきた遊星には、その程度の経験しかなかった。
「俺は巻き込んでしまった。俺たちの、シグナーの運命に。無関係のあの女を。俺が殺してしまったようなものだ」
まるで懺悔のようだった。神など一度も信じたことのないような男が、まるで遊星を神父と間違えでもしているかのように言葉を吐き出していく。
「だから、これで良いのだ。何事もなかった。あいつは死んでなどいない。あいつはダークシグナーになどなっていない。――残るのは、俺があいつを殺した罪だけだ。……そしてこの苦しみは、それに対する罰なのだろうと思う」
ぎりとグローブの布が擦れ軋む音。
「もう一度、思いを伝えることはしないのか」
「それでまたあいつを巻き込んでしまうことになってしまったらどうする」
紫の瞳に睨まれる。刺すように鋭い眼差しは、強固な意志を感じさせた。
「これでいいんだ、これで」
牛尾に事情聴取をされるカーリーを遠くから焦がれるように見つめ、ジャックは口元に笑みさえ浮かべた。
彼の思いは変わることがないだろう。この先、永遠に。生まれたときからその腕に刻まれた運命の刻印が、彼の恋を成就させることはないのだ。
昔孤児院で聞かされたおとぎ話を思い出す。呪われた恋人を救おうとした王子様の物語。――本当に呪われていたのは、王子様の方だったのだ。一国の王であるために孤高であれと、生まれたときに魔法使いにかけられた祝福の呪い。
ダグナー編でジャッカリに萌えまくってたのに何故ジャッカリそしてあの熱い告白がなかったことになったのかの考察。求めたものは全て失ってしまうジャックがいつかカーリーの願いどおり本当のキングになってたくさんのものを手に入れられますように。ちなみにダークキングの次回予告にはリアルタイムで盛大に釣られた人です。
Text by hitotonoya.2010